■「憧れの犬と暮らしたい!」60歳の決断とは…?
千葉県に住む斉藤キャサリンさん。大の犬好きで子どものころから、たくさんの犬たちと一緒に暮らしてきました。でも、60歳の還暦を迎えたとき、ふとこんな思いが頭をよぎったそうです。
「私ももう60歳。残りの人生、あとどれくらい犬と一緒に過ごせるだろう?」
加齢とともに体力が落ちてくることを考えると、新しい犬を迎えることはあと1回か2回かもしれない…。そう思った斉藤さんは驚きの決断をします。それは、大好きな大型犬、しかも世界最大級・究極の大型犬といわれるアイリッシュ・ウルフハウンドを飼うことでした!
「普通は年を取ると散歩やケアが大変だから…という理由で小型犬を飼う方が多いのかもしれませんね。でも私の場合、大型犬が大好きだし、これまでもレトリバーやスタンダード・プードルなどの大型犬が家にいましたから、扱いには慣れています。だから、生涯最後に飼うのならやはり究極の大型犬、憧れのアイリッシュ・ウルフハウンドを飼いたいって思ったんです」
そんな斉藤さんの願いを聞いた友人が、たまたま「都内のブリーダーのところに生まれたばかりのアイリッシュ・ウルフハウンドの子犬がいる」という情報をキャッチ。斉藤さんに教えてくれました。
喜んだ斉藤さんはすぐにご主人と一緒に、子犬とその両親に会いに出かけました。
「実は、写真ではアイリッシュ・ウルフハウンドを見たことがあったのですが、実物を見るのはそのときが初めて。子犬の可愛さは想像通りでしたけれど、成犬(子犬の両親)は想像を超える大きさでした。びっくりしましたね~。でも、こんなに大きな犬と暮らせるんだ~♪と思って、ワクワクしました」と斉藤さん。「でも、同行していた主人は驚きのあまり無口になっちゃって(笑)。帰りの車の中では『ホントにあの犬を飼うの?あんなに大きくなるんだよ。大丈夫?』って、しきりに心配していました(笑)」。
ご主人が心配するのも仕方ありません。なにせアイリッシュ・ウルフハウンドは体高(肩までの高さ)約90cm、体重は80kgを超える超ビッグサイズ!もともとアイルランドで家畜を狼から守るために飼われていただけあって、体格もがっちりしています。
しかも斉藤さんは、「1頭だと寂しいだろうなと思って…」と、なんと雄1頭・雌1頭の計2頭を家族に迎えることにしたのです。さあ、2頭の新入りを迎え、斉藤家ではどんな暮らしが始まったのでしょうか?
■驚きの出会い!そして突然の…
斉藤家にやってきたのは、雄の蓮(れん)と雌の涼(りょう)、2頭のアイリッシュ・ウルフハウンドです。2頭は大きな体から受けるイメージとは裏腹に、とっても優しくて温和、従順な性格。引き取って間もなくプロのトレーナーに基本的なしつけをしてもらったので、ご主人が心配していたほど飼うのは大変ではありませんでした。
「体は大きいですけど、アイリッシュは優しくてかわいい顔をしているから、他の方に怖がられたこともほとんどないんですよ。むしろ小さなお子さんが『大きなワンちゃんだ~』と言って触りに来てくれるくらい。ただ、体が大きいので、ちょっと当たっただけで相手の人や犬にケガをさせる可能性もあるので、そこは十分に注意しています」。
こうして、拍子抜けするくらいに「普通に」始まったアイリッシュ・ウルフハウンドとの暮らしは、本当に穏やかで平和なものでした。そしていつの間にか2頭は斉藤家にとってなくてはならない大切な存在になっていったのです。
「特に雌の涼とは気が合って、毎日一緒に寝ていました」と目を細める斉藤さん。「話しかけると、じっと私の方を見て話を聞いてくれるような優しい子だったんですよ」。
ところが2頭が家に来てから6年目の2016年の春。悲しい別れが訪れます。
家族でお花見に出かけた翌日、突然、涼が高熱を発してしまったのです。
すぐにかかりつけの病院で診てもらうと、「急性の肺炎」とのこと。必要な処置を受けたあと、家に帰った涼は薬を飲み、体を冷やしてもらいながら、いつもより早く眠りにつきました。特に苦しがる様子もなく、斉藤さんに見守られながら、すやすやと眠っていた涼。しかし、涼が目を覚ますことは二度とありませんでした。涼は文字通り眠るように静かに、天国へ旅立ってしまったのでした。享年6歳。
他の大型犬と同様にアイリッシュ・ウルフハウンドの寿命は短く、6歳で亡くなるのは決して珍しいことではありません。しかし、あまりに突然のことだったため、斉藤さんはなかなか涼の死を受け入れることができませんでした。
「前の日にお花見に連れていったのがよくなかったのではないか」「なぜもっと早く体調の変化に気づいてあげられなかったのか」と自分を責め続ける日々…。
そんな斉藤さんのもとに、友達から「もう1頭、アイリッシュ・ウルフハウンドの子犬を飼ってみないか」との連絡が入りました。涼が亡くなる少し前に、生まれた子犬がいるというのです。
「涼を亡くしたばかりなので、最初はとても引き取る気になれなかったのですが、いろいろと考えているうちに、もしかしたら涼が私を心配して、その子犬を私のところに送ってくれようとしているのかもしれないと思えてきました。娘も『一人になった蓮のためにも、もう1頭、飼ってみようよ』と勧めてくれたので、思い切って引き取ることにしたのです」と斉藤さん。
■ジャンプしてトンボをキャッチ!いたずら小僧・珀がやってきた!
そして、涼の死から数週間後、まだ生後数か月の小さなアイリッシュ・ウルフハウンドが斉藤家にやってきました。白っぽい毛をしているので珀(はく)と名付けられたその子犬は、涼や蓮と違って大変ないたずらっ子!庭を跳んでいるトンボを捕まえて食べてしまったり(!)、庭に落ちている板切れを噛みくだいてしまったり、かと思うと、お昼寝中の蓮にじゃれついて起こしては怒られたり…。一時もじっとしていないヤンチャな珀の登場で、斉藤家の生活は一気ににぎやかに!
「珀に振り回されて、毎日忙しくしているうちに、少しずつ涼を亡くした悲しみが癒えて来たような気がしています。もちろん片時も涼を忘れたことはありませんが、涼と過ごした日々を穏やかな気持ちで思い出せるようになったのです」。
珀が斉藤家に来て、もうすぐ8カ月。最初は珀をうるさがっていた蓮も、今はすっかりいいお兄さんになって、珀の面倒を見てくれるようになりました。涼がいたころのような、穏やかでのんびりとした日常が少しずつ戻ってきつつあります。
「改めて思い出してみると、涼や蓮とは本当に楽しい思い出がいっぱい。一緒に海に行ったり、『千葉県一大きな犬』としてテレビで紹介されたり…。残念ながら涼は亡くなってしまいましたが、たくさんの思い出が残っているから、いつも涼を近くに感じながら暮らすことができています。体はなくなっても、涼の魂はいつも私と一緒にいてくれるような気がするんですよ。これからは蓮や珀ともたくさんいろんな思い出を創りたいですね。そして私も豊かな老後を元気に楽しみたいと思っています」