人は何処より来て、何処へ行くのか。
わたしは今もってわかりません。
わかっていることは、自分は自分の意志でこの世に生まれてきたのではないということ、この世にいる時間を自分の都合で調節できないということだけです。
何かの意志でこの世におくられてきたわたしは、あるときまでこの世に留めおかれます。それまでは自殺したところで未遂に終わるのがおちでしょうし、寿命のつきるときはどんな妙薬を投じられても甲斐はありません。
旅に出るときどれほど用心しても、堕ちる飛行機は堕ちるし、沈む船は沈みます。
人間の無力さに気づいたとき、わたしは出家しました。
しかし、出家というのも何かの意志に動かされ、そうせざるをえない方向に自分の心境をもっていかれたとしか思えないのです。瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ