結婚生活を北京で送っていたわたしは、夫が出征した直後にもうお金がなくなりました。阿媽(アマ・お手伝い)の春寧(シュンニン)の給料も払えなくなったので、帰ってくれと彼女に告げると、祖母の茫媽(ファンマー)が翌日駆けつけてきていったのです。
「困ったときこそ助け合うのが朋友(ポンヨー)だ。太太(タイタイ・奥さん)は春寧を無給で使って子供を見させ、働きに出なさい。給料は払えるようになったら払ってくれればいい」
クリスチャンの茫媽はまた、わたしの夫のために日曜日にはうんと蝋燭をはりこみ教会で無事を祈っているといってくれるのです。
夫が出征してはじめて、わたしは声をあげて泣きました。瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ