自分の属している世界から、ある日突然姿を消し去り、全く別の世界で生き直したいと、一生に一度も思わない人間がいるでしょうか。
心が冷たいからとは限りません。心があたたかすぎるから、しがらみに耐えきれなくなった人間もいるはずです。
心の傷を受けて虚無的になってしまう人間もいれば、生まれたときから、母親の胎内に熱いものを置き忘れて、はじめから心に穴のあいてしまった人間だっているでしょう。
心臓に穴のあいた赤ん坊は医者がす速く発見しますが、穴のあいた心をもって生まれた赤ん坊は、医者にも誰にも発見してもらえません。瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ