今年が見おさめかもしれない 【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第93回

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姉の送ってくれた三十株の牡丹に寒肥をほどこしながら、あの冬も格別寒かったと思います。白梅をくれた老人も、紅梅をくれた華やかな女人も、すべて浄土の人になっています。
花の咲くのに立ち合い、美しい日を仰ぐ度、今年が見おさめかもしれないと、ひそかに心をこめるようになってきました。
人と逢って別れるときも、いつもそれを想い、だからこそ、いっそう自然も人もなつかしく、美しいところだけが心にしみてくるのです。

瀬戸内寂聴

瀬戸内寂聴プロフィール

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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