夫を失った未亡人は【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第108回

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男には、いくら愛していても、仕事や社会に時間をさかれて、妻への愛し方に悔いが残されるようです。それに比べて、夫に先立たれた未亡人のほうは、悲しみの底から、どこか力強い立ち直りの力が感じられるし、つくすだけはつくしたといったふうな、思いきりのよさを、みんな申しあわせたように抱いているように見えます。悲しみを越えて、生きようというたくましさが、未亡人の巡礼の足音にはこめられているのです。彼女たちはよく笑い、よく食べ、よく喋ります。一歩ごとに、悲しみの径(みち)は遠くしりぞき、明るい未来への道が、足許からのびていくように見えてきます。

瀬戸内寂聴

瀬戸内寂聴プロフィール

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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