空しさの底にかくされているもの【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第140回

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「空しい」といってわたしのところへ来る人は、それをいうとき、みんな涙を浮かべています。空しすぎると身悶えするほど自分の生き方を見つめることのできる人は、空しさの底にかくされている何かを、いつか必ず掬いださずにおかないのではないでしょうか。人間はだれにも自衛本能があります。波の底に足がつくと、思わず、底を蹴りたてて浮かび上がる方法をとるものです。わたしの場合、蹴りあげた拍子に、出離(しゅつり)という「うき」が目の前に投げ出されたのでした。

瀬戸内寂聴

撮影:斉藤ユーリ


出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫

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