わたしを残して他界していった人たちの魂。
わたしの人生で重要な役を果たしてくれ、逢うべくして逢った人たち。
わたしはこの頃、いつでも自分の身のほとりに、彼らの気配を感じとります。
ふっと気がつくと私は彼らに話しかけ、彼らの答えをはっきりと聞いています。
深夜、孤独な執筆に熱中し、ふと、ペンが止まったとき、身のほとりにあたたかな感じで彼らはいます。肉体は消えているので透明だけれど、霊魂は在りし日のままのまなざしで、それは彼らが、わたしに示してくれた一番やさしくなつかしいもののままなのです。
わたしたちに音声はいらない。得度で一度死んだわたしは、彼らとの間ではすでに死者どうしで、霊魂語で語りあえるのですから。瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ