ロンドンで開催された、陸上の世界選手権が閉幕。全競技終了後、今回で現役引退を表明しているボルトがセレモニーを行いました。今大会は100メートルで3位、リレーでも左太ももを痛めて途中棄権と、まったくボルトらしさが影をひそめていたものの、結果がどうあろうとスタンドからは大歓声が送られました。ゆっくりとトラックを1周すると、
「さよならを言ってきた。ロンドンの観衆は素晴らしい。いつもホームのように感じた」
と心から感謝の気持ちを表しています。
まだ、30歳。スポーツ科学の発達で競技年齢が伸びています。陸上も30歳といえば現在は脂が乗り切る頃。当初、昨年のリオデジャネイロオリンピックで引退を宣言したものの、ファンをはじめ各方面から現役続行の声があがり、やむなく1年間の延期をしました。
「ロンドンでショーを見せたかった。戦う姿をみせることができて良かったと思う」
と話しています。
そんな事情があるだけに、引退会見では繰り返し現役復帰についての質問を受けました。ところが、これについては明快に答えます。
「復帰はない。今まで数多くの選手が自分の決断を撤回して醜態をさらしている。おれは、そういう人間にはならない。彼らとは違う。自由になれることを楽しみにしていたのだから」
と強い口調で完全否定。このあたりもボルトらしさでしょう。引き際の美学もお見事です。
オリンピックでは8個の金メダル、世界陸上でも、計14個のメダルを獲得しています。レースでは年間約3億円の賞金を得て、その10倍以上にもなる約30億円以上のスポンサー収入があった。とは言え、すべて自分のために使うのではなく、故国ジャマイカで自身の基金をつくり、子どもたちの就学費用に約7億円の寄付を続けています。
「努力を積み重ねていけば、どんなことでも叶う。若い世代へ残した財産だと思う」。
人類最速として名を成したのは100メートルですが、ボルトは100メートルが苦手で、200メートルが最も好きな種目。グレン・ミルズコーチは当初、400メートルで大成する選手と見込んでいたようです。しかし、ボルトは、
「そんな長い距離は走れない」
と拒否。
「100メートルで成功したら400メートルを走らなくていい、と言うコーチと賭けをしたそうです。必死だった。そうしたらオリンピックでメダルが獲れたよ」
と舞台裏を明かしています。
ミルズコーチの指摘は的外れではありません。ボルトはスタートが良い選手ではない。30メートル地点までは平均よりも遅く、終盤で一気に相手を突き放す。60-80メートルでは、時速45キロ以上のトップスピードへ達する。ここが人類最速の男たるゆえんです。
12年のロンドンオリンピックではフィールドでインタビューを受けていると、他の競技の表彰式が始まり、国歌が流れてきた。すぐさま、
「あとにしてほしい。失礼だろう」
と取材を中断。そんな陸上選手はかつていなかった、と絶賛されています。
喜怒哀楽を全身で表現する人間らしさが魅力。ドーピングの噂など一切、出なかったことも世界中で愛された要因でした。今回の世界陸上の100メートル。優勝したにもかかわらず、ジャスティン・ガトリンはスタジアムのファンから大ブーイングを浴びていた。ファンはかつての過ちを許していない。これもまた、ボルトを引き立たせた要因でした。
8月15日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」