とにかく強い。米国ソルトレークシティーで開催された、スピードスケートのワールドカップ第4戦・女子1,000メートルで小平奈緒が、1分12秒09の世界新記録で優勝を飾りました。個人のオリンピック種目で、日本の女子選手が世界記録を叩きだしたのは、初めて。国内外の大会で23連勝と、快進撃を続けています。
500メートルのスペシャリストが、快挙を達成。ここ数年で、フィジカルの強さが際立つようになってきました。その結果が、1,000、1,500でも好タイムを出す。1,000メートルの世界記録を更新して、
「今日は喜びたい。やっと、自信がついた」。
と語っています。振り返れば、特に1,000メートルでは、高地開催のレースでは滑りにくいと苦手意識が先行していたようです。何度も転倒した経験がある。
「高いところのリンクには行きたくない、と思った」
と話しました。
それが、ソチオリンピック後の2014年から、練習拠点をオランダへ移しました。スピードスケート強国の選手たちと練習を行うことで、一気にレベルアップに成功しています。周囲の男女は皆、体形が大きい。小平にしても、165センチと日本人からすれば、小さい方ではありませんが、ダイナミックという言葉とは無縁。スピードで勝るため、当時のコーチから、
「Boze Cat(ボーズ・カット)になれ」
とアドバイスがあった。ボーズ・カットとは、オランダ語で怒った猫の意味がある。
前のめりで滑るため、スピードをロスしてしまう。肩をあげて、重心を低くすれば滑りが安定し、空気抵抗を減らすことができる。加えて、メンタルまで怒った猫になればいい。いつの間にか、ボーズ・カットがニックネームになりました。そうはいっても、連勝記録をマークするようになると、
「私は、猫ではありません。虎になりました」。
かつて、スピードスケートといえば、清水宏保、岡崎朋美に代表されるように、肉体と精神をぎりぎりまで追い込むことが日本流でした。オフの夏場は自転車や、ハードな筋力トレーニングをメニューにしてきたのです。小平も、あこがれの選手を手本にして、その方法で基礎を固めてきました。ところが、オランダ留学では、
「メンタルは8割で行く。周囲の選手は精神的に追い込むようなトレーニングをしていない」。
オランダで約2年間、さまざまなことを学んで昨年、帰国しています。現在は地元の長野へ拠点を移したのは、なぜでしょう。牛乳、タマゴなどのアレルギーが出て、コンディションを落とすようになったからでした。すでに、ワールドカップの通算勝利数は、岡崎朋美を超えています。
オランダの経験を生かして、自分流にアレンジ。日本でも実践し、きっちりと結果を残した。あとは、平昌で世界一を獲得することが最大のターゲット。
「毎年、寒暖差の激しいこの季節に、風邪をひく。しっかり体調管理をしないといけません。スキをつくらないために」
と、気を引き締めている。怒った猫のフォームは今季、より腰の位置が低くなりました。死角がないことが死角。「相手を殺すつもりで行け」が、オランダで受け継がれているレースへ臨むスタイルです。
12月12日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」