経済界新年パーティの裏側

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【報道部畑中デスクの独り言】

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経済三団体の新年パーティ 報道各社のカメラ”臨戦態勢”だ

2018年も明けました。大発会、新年の訓示、出初め式…官庁や企業では様々な仕事の始まり方がありますが、経済界では株式市場の大発会、そして経済三団体の新年パーティで1年が始まると言っても過言ではありません。

その新年パーティ、今年は1月5日、例年通り、時間は午後2時から3時。パーティそのものは経済三団体のトップに総理大臣のあいさつ、乾杯、歓談とオーソドックスなものです。パーティの幹事は経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済三団体の持ち回りで今年は経団連が幹事。パーティが終わると、その後は午後4時過ぎまで三団体トップの記者会見、ここまでなら普通の取材です。

ところが、そのパーティ会場の外では企業トップへの取材をめぐり、各社がすさまじい“戦い”を繰り広げています。とりわけテレビ各局は「新年の企業トップを直撃」と題して、テーマを決めて企業のトップに答えてもらう形の取材をしています。テーマは「今年の景気の見通し」を中心に「国際情勢」など様々、特に今年はパーティで安倍総理大臣が「3%の賃上げ」をトップに直接要請したこともあり、「賃上げ」も注目点となりました。

自動車業界 新年パーティ メーカー トップ 参加者

自動車業界の新年パーティ メーカーのトップが参加者を迎える

この取材で特徴的なのは各局のキャスターたちが自ら質問し、あるいはフリップを使ってトップらに自ら回答を書いてもらうことです。つまり「囲み」「ぶら下がり」と称する「共同取材」ではなく、各局の「単独取材」。取材時間はパーティの間の1時間ちょっと…この間、注目企業のトップをめぐって言葉は悪いですが、文字通りの「分捕り合戦」と化します。その日の夕方や夜のテレビ各局のニュースで、何食わぬ感じで映るインタビューの裏側ではこのような熾烈な争奪戦が展開されているのです。

逆にトップの人たちから見ると、報道陣でごった返すスペースの中で、テレビカメラの前を何局も「はしご」しているということになります。本来このパーティは経済界のトップたちが新年のあいさつに集う趣旨なのですが、トップの中には「マスコミのために来ているようだ」と漏らす人もいます。「みんな仲良く横並び」が決していいとは思いませんが、結果的に新たな「横並び」になっているのが現状です。

とは言え、声が命である以上、我々ラジオも指をくわえて見ているわけにもいきません。トップはいったんある社につかまってしまうと、「次はウチ」「その次はウチ」と…、結果、ラジオは後回しになることが多いのです。テレビはNHK、民放含めて最低でも6局、さらに同じ局でも番組でさらに分かれていたりします。それをずっと待っていたら時間がなくなってしまいます。合間を縫ってコメントをいただくには日ごろの取材などで関係をつくっておくこと、そしてラジオではあるものの、トップの顔写真の入った資料を準備する…結局、普段の活動がモノを言います。そんな喧騒の中で、コメントをいただく方々には本当に感謝の気持ちです。

自動車業界 新年パーティ 自工会 西川会長

自動車業界新年パーティ 自工会・西川会長あいさつ①

自動車業界 新年パーティ 自工会 西川会長

自動車業界新年パーティ 自工会・西川会長あいさつ②

…と裏側の話が長くなってしまいましたが、本題です。

「高嶋ひでたけのあさラジ」でお伝えした通り、企業のトップからは今年の景気の“天気予報”について「晴れ」と答えた人がほとんどでした。ただ、晴れと言ってもいろんな晴があります。ちなみに私は気象予報士ですが、気象学的には、目視で空の8割が雲に覆われていても「晴れ」となります。

「晴れで遠くに雷雲あり、すでに見えている」(明治安田生命・根岸秋男社長)
「晴れと曇りが少しあって、入道雲もある」(サントリーホールディングス・新浪剛史社長)
「快晴に向かっていく晴れ」(三井不動産・岩沙弘道会長)

安倍総理が「3%賃上げ要請」の発言をするなど、概ね明るいムードのパーティではありましたが、北朝鮮情勢やいわゆる「トランプリスク」、中国とアメリカの関係も含めた地政学的リスクでいつ「豪雨」に見舞われるかわからない…企業のトップからはそんな危機意識もにじんでいました。そうした中で、今年の春闘で賃上げはどのレベルまで達成するのか…労使交渉の火ぶたは間もなく切って落とされます。

この日は経済三団体のパーティだけでなく、自動車業界の新年パーティもありました。日本自動車工業会会長の日産自動車・西川広人社長は冒頭のあいさつで昨年の無資格検査問題を改めて謝罪。言葉少なく会場を後にしました。多くの出席者の中、会長のいる場所には遠くからもわかるように赤いボンボンが上端に付いた棒が動くのですが、その棒は早くに壁に立てかけられていました。

「100年に1度の大変革期の中、今年のキーワード“スピード”と“オープン”。答えのない中、重要なのはスピード。囲い込みではお天道様は微笑んでくれないじゃないか」

経済三団体 新年パーティ

経済三団体の新年パーティ、参加者でごった返す

一方で、最大手のトヨタ自動車の豊田章男社長はこのように話していました。「電動化のフルラインメーカー」とも述べ、EV=電気自動車の取り組みが遅れているという指摘を暗に否定。何が主流になるのか不透明な中、かつての「石橋を叩いて渡る」手法は通用しない、系列のあり方を見直すこともあり得る…そんな覚悟が豊田社長からは感じられました。そして、それは一向に進まない国の成長戦略にも向けられていたのかもしれません。

自動車業界では「CASE」という言葉があるそうです。Connected=つながる車、Autonomous=自動運転、Sharing=シェアリング、Electricaly=電動化。今年もこれはキーワードになるとみられます。国内外の競争が激しくなる中、日本は官民で立ち向かうことができるのか、正念場の1年になることは間違いありません。

経済界のパーティ取材、初めて会場を訪れたある企業の関係者は「話には聞いていたが、ここまでとは」と話していました。そんなにぎわいを経て、我々記者の1年も始まります。

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