悩みに悩んだ衆議院選挙終わる
公開: 更新:
【報道部畑中デスクの独り言】
「厳戒態勢の中の“安全運転”」自民党の選挙戦を私は特別番組でこう表現しました。
10月22日投票が行われた衆議院選挙は自民・公明の与党が追加公認を含めて定数の3分の2、つまり憲法改正の発議に必要な議席を超える勝利で終わりました。
私は自民党担当で当日は東京・永田町の自民党本部にいました。4階に設けられた開票センターは200人ほどの報道陣でごった返しました。しかし、自民党勝利の高揚感は乏しく、当選確実候補にバラの花をつける安倍総裁にも笑みはなく、口をずっと真一文字に引き締めていたのが印象的でした。ただ、「笑わない“演出”でいく」と決めたことは想像に難くありませんが…。
特別番組でもお話ししましたが、今回の与党の勝因は野党の「オウンゴール」に助けられたのが一番の理由であることは疑いありません。その中であえて能動的な理由を挙げるとすれば、政策をひたすら訴える「安全運転」「勝つ戦略ではなく“負けない戦略”」をとったことが大きかったと思います。
3カ月前、自民党にとっては“悪夢”の都議選、東京・秋葉原での「安倍ヤメロコール」の嵐に対し、「こんな人たち」と発した安倍総裁の言葉が、自民党大敗の一因となったことは記憶に新しく、一種の「トラウマ」になっていたのは間違いありません。公示前、総裁の遊説場所は直前まで報道陣にも知らされず、さらに直前に変更になるケースもあり、「ステルス演説」とも呼ばれました。しかしその中身は「北朝鮮の脅威に対する安保法制の必要性」「雇用拡大など経済政策の実績」「教育無償化の訴え」そして「自民党が負けた時も名前を変えなかった」と暗に野党の動きを批判…奇をてらわず終盤は各地ほぼこのシナリオを貫きました。
「総理はうそをついてはいけなーい!」「やめろ!選挙妨害だ」
安倍総裁に反発するグループのツイッターには「お前が国難」、総裁のイニシャルにからめて「Aアラート」などという文字も踊り、遊説ではヤジやプラカードもありましたが、自民党はそうした挑発には乗らず、与党にとって致命的なものにはなりませんでした。逆にヤジに対して別の有権者が上記のように返し、両者が小競り合いになる「場外戦」もありました。遊説各地は制服警察官にSPと物々しく、警視庁の担当者は混乱を避けるために警察官の数を増やしたことを認めています。まさに厳戒態勢の中の演説でした。そうした中で安倍総裁の演説について、聴衆からは「声が早口で聞き取りくいところがあった」という声もありました。言葉と言葉の「間」も少なく、ヤジを飛ばす隙を与えなかったことがうかがえます。
一方、しっかり間を取り、噛んで含めるような遊説で主役を食う人気だったのが小泉進次郎筆頭副幹事長でした。圧巻だったのは千葉県・松戸駅前の演説。公示2日目の11日午後3時半、デッキ下は進次郎氏、デッキ上が立憲民主党・枝野代表と有権者にとっては“ゴージャス”なひと時でした。演説時間が重なるところ、進次郎氏はマイクを持つやいなや、「(枝野代表が終わるまで)待ちましょう」と時間を枝野氏に譲り、その間、聴衆に細かく手を振り続けたのです。その時間実に11分50秒。一方、演説時間は11分39秒、休憩より短い演説となりましたが、この休憩時間は格好の「フォトセッション」の時間となり、かえって好感度が上がる結果となりました。街宣車の背後にあるビルからテナントの女性職員がスマホで写真を撮る姿が見られたほどです。ちなみに枝野代表は20分あまりの熱弁でした。
そして、口を開くと、憲法改正も「進次郎流」でした。奇しくもこの日は東日本大震災の月命日、千葉県内でも被災した人が少なくない中、「災害救助にやってきた自衛隊に向かって“憲法違反”と言う人がいるのか?なぜ右だ、左だの話になると、この議論が前に進まないのか」…。
この憲法改正、自民党の政権公約には今回、最後の2ページにわたって掲載されました。しかし、安倍総裁の演説からは憲法改正についてはほとんど語られていません。語らないから有権者が関心を持たないのか?有権者に関心がないから語らないのか?…何やら「卵が先か鶏が先か」の議論のようですが、私には総裁と有権者が「お見合い」をしているように思えてなりません。賛成にせよ反対にせよ、この状態はいつまで続くのか…むしろ本音を語らない安倍総裁にある種の「危うさ」を感じる有権者がいるのではないか。世論調査で内閣支持率の頭打ち、「安倍政権の下での憲法改正に反対」を答える人が多いのと無縁ではないと感じます。
また、今回の選挙は「安倍政権の信任選挙」と言われましたが、果たして有権者の反応はどうだったか…「経済政策は評価できる」「北朝鮮への対応を考えたら自民がいいのではないか」という声がある一方、「モリ・カケ問題は解決していない」「数で押し切るやり方に批判的」という声もありました。「自民がいい」と言うより「ほかに適当な政党がない」消去法的な意見も少なくありませんでした。これは自民党の街頭演説を聞いていた人の意見です。山形・新庄で行われた安倍総裁の演説でも北朝鮮対応の話では大きな拍手がわきましたが、経済政策では有権者や冷ややかな表情だったことを思い出します。「諸手を上げて信任」という印象にはどうしても見えませんでした。勝利の上にも「今後はより謙虚な政権運営を」というのが大方の民意ではないかと感じます。
そして、有権者に聞いた声では直前まで「どこに入れるか悩む」と話す人が多かったのもまた事実です。今回ほど選ぶのに悩んだ選挙はなかったのではないでしょうか?今回の投票率は53.60%と前回より上がったものの、戦後2番目の低さだったそうです。決して喜べる数字とは言えませんが、「超大型」の台風21号が接近、また東京では10月10日から22日までの選挙期間中、晴れた日は3日しかありませんでした。その中、よくこの数字でとどまったと私は思います。そして、悩みに悩みぬいて投じた票は「濃密で重い票」であるとさえ感じます。その票の重さを忘れぬよう…与野党の当選者全員に申し上げたいことです。