日産・無資格検査問題に思う③クルマに対する愛情は?
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【報道部畑中デスクの独り言】
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現在の日産本社(横浜)
今年もあと半月、押し詰まってまいりました。さまざまなニュースがありましたが、中でも大手メーカーによる、無資格検査問題やデータ改ざん問題は「ものづくりニッポン」のイメージに大きな影響を与えました。特に無資格検査問題を起こした日産自動車については、これまでもお伝えしましたように様々な思いがあります。
アメリカには自動車と自動車産業に関する「自動車殿堂」なるものがあります。自動車産業に貢献した人物が殿堂入りし、錚々たるメンバーが名を連ねています。量産車の草分け「フォードT型」を生み出したヘンリー・フォード氏、クライスラーの創設者、ウォルター・クライスラー氏、言わずと知れた発明王、トーマス・エジソン氏、フォルクスワーゲン・タイプ1(通称ビートル)などの名車を生み出したフェルディナント・ポルシェ氏、イタリアのスーパーカー「フェラーリ」の創設者、エンツォ・フェラーリ氏タイヤメーカー、ダンロップの創設者、ジョン・ボイド・ダンロップ氏…もちろん、日本人にも受賞者がいます。その中で自動車メーカーの関係者は、ホンダの創設者、本田宗一郎氏、トヨタ自動車の社長を務めた豊田英二氏、豊田章一郎氏。いずれもメーカーの創設者、もしくはそのDNAを引き継ぐ経営者です。
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車種に関する書籍も多い 技術者自ら執筆したものも クルマの開発には熱いストーリーがある
日産にも殿堂入りした人物が1人います。その人の名は片山豊氏、米国日産の社長を務め、「フェアレディZの父」「ミスターK」と呼ばれてアメリカではカリスマ的存在でした。ダットサンブランドを全米に広めた人物で、日本にもファンは少なくありません。しかし、片山氏自身は日産本社の経営中枢とは離れた立場にある人でした。
アメリカで評価された人物が経営者ではない…このあたりがいい意味でも悪い意味でも、日産という会社を如実に現しているような気がします。日産はそのほかにも「スカイラインの生みの親」桜井眞一郎さん、「ミスターGT-R」と呼ばれた水野和敏さん、「現代の名工」に選ばれた加藤博義さん…カリスマ性を持った技術者やテストドライバーがいて、クルマに大いなる愛情を注ぎました。そうした方々が数々の名車を作り上げてきたのです。
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日産に関する書籍の数々 常に注目される存在だ
今年の自動車業界を揺るがした日産の無資格検査問題、記者会見では原因と背景について、「現場の行動と管理者側の認識の薄さ」「現場と管理者との距離」を強調していました。また、西川社長は「動機については明確な答えはなかった」と語ります。
「現場は優秀だけど、それに対して経営が…」とは申しません。ただ、日産の一連の対応を見ていると、現場の思いを経営陣はどれほど理解していたのか…そして「クルマを愛する情熱」はあったのか…。往年の自動車評論家、徳大寺有恒さんは「自動車メーカーの経営者は“カーガイ(クルマ野郎)”でなくてはならない」と語っていました。いまの日産の経営陣にそうしたカーガイがどれだけいるのか…普段日産を取材していると、他社に比べてそうした思いが希薄と感じることがあります。また、販社からもそうした声が聞こえてくるのです。
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旧日産本社 かつては官僚的な体質から「銀座通産省」などと呼ばれた
繰り返しますが、かつての日産は官僚的な体質で「大企業病」と呼ばれ、一時は倒産の危機に瀕しました。ただ、多くのクルマにファンを熱くさせる魅力があり、それが日本の自動車業界に大きな足跡を残したことは間違いありません。
ルノーによる支援、カルロス・ゴーン氏が辣腕を振るった再建により、日産はルノーなどを含めたグループで世界販売トップをうかがうまでになりました。しかし、クルマに対する愛情、歴史を大切にしない会社にあすはないと思います。問題を受けて検査体制を厳格化する再発防止策がとられましたが、申し上げた“根っこ”の部分を大切にしない限り、こうした問題はまた起こるでしょう。今回を機に、経営陣は大切なものをいま一度見つめ直してほしいと切に願います。
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フェアレディZ(上)とGT-Rのパワートレーン(下)共に栃木工場の生産だ