日産・無資格検査問題に思う

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【報道部畑中デスクの独り言】

西川広人

会見する西川広人社長①

「心からおわび申し上げたい。検査がちゃんと行われていること以前にあってはならないことだ」…

日産自動車に突如降ってわいた無資格検査問題。国土交通省から委託され、本来、資格をもって行うべき新車に対する完成検査の一部が、資格のない補助検査員によって行われていたというものです。9月29日、国土交通省で開かれた担当者の会見に続き、週明けの10月2日、西川広人社長が緊急の記者会見を行い、冒頭で陳謝しました。

横浜の本社の会見場、普段行われる決算発表では「NISSAN」のロゴが入った台が設置され、入念な準備の下「立ちスタイル」で行われますが、今回は簡素な長机でおわびの冒頭以外は座って行われました。通常用意される音声分配器もなく、各社はそれぞれマイクを立てて行われたあたり、急ごしらえの機会であったことがうかがえます。

西川広人

会見する西川広人社長②

折りしも、先の「独り言」でもお伝えした電気自動車「新型リーフ」の発売が開始された日、攻勢の出鼻をくじかれただけでなく、今月下旬から開幕する東京モーターショーへの影響も懸念されます。モーターショーについて西川社長は「日産としてやるべきことはやる。できるだけ影響のない形で進めていく」と話していますが、日産ブースはまずおわびのあいさつから入ることになりそうです。

会見では再点検のために2014年10月から2017年9月までに製造された、つまり車検を一度も受けていない約121万台をリコール対象とすることが明らかにされました。一方で、拡大路線やコストカットの歪みという指摘について西川社長は「忙しいとか人手が足りないということではない。約束の工程の意味が認識されていなかったのではないか」と述べ、関連を否定。そして「検査そのものは確実に行われている」として、安全性に問題はないという認識を示しました。

西川広人

会見する西川広人社長③

会見

会見にはTVカメラがズラリ

原因の根本や経営責任については、今後、最低1カ月をかけて調査を行った上で明らかになるということですが、今回のニュースに接するにあたり、少年のころの車好きがそのまま大きくなったような私としては、こんな思いが頭をよぎりました。

「ブルーバードの発売が始まったのはいつからか?」「ええと…」

いまから5年前、小型セダン「ブルーバードシルフィ」がモデルチェンジを行い、「シルフィ」となった発表会でのエピソードです。この日、日産から「ブルーバード」という車名が消えました。53年間、半世紀を超える長きにわたって日産を支えてきた伝統ある名前…翌日の新聞各紙は新車の発表より「さらばブルーバード」「ブルーバードの車名消える」など、伝統ある車名の消滅が見出しを飾りました。しかし、その車名の重みを感じている関係者は少なく、ある記者が広報担当者に聞いた上記の質問に答えられませんでした。「1959年ですよ」と一緒にいた私は思わず助け舟を出したのですが、車好きを熱くした日産はどこへ行ってしまったのだろうか…この時、一抹の寂しさを感じました。

カルロス・ゴーン

通常の決算会見(2011年 カルロス・ゴーン社長(当時))

シルフィ発表の翌日、ニッポン放送の番組「高嶋ひでたけのあさラジ」が「懐かしの名車」と題してメールを募ったところ、実に多くのメールが寄せられ、日産車がかなりの数に上りました。しかも、「510ブルーバード」「R32スカイライン」「S13シルビア」…“型番”で呼ぶ熱いファンが多かったのです。これらのクルマは生産停止からすでに30年~40年経ちますが、いまも名車と称えられ、根強い人気があります。このような旧車を丹念に修理し、愛し続けるクラブさえあるのです。かつての日産は労使の暗闘、官僚体質などの影の部分が伝えられ、それが経営危機につながったことは疑いないところですが、多くの車にファンを熱くさせる魅力がありました。

決算会見

通常の決算会見(2011年)

「日産リバイバルプラン」による経営再建により、確かに経営は安定し、日産はルノーとの提携で、グループ全体で世界販売トップをうかがう位置にまで成長しました。しかし、昨今、日産から聞こえるニュースは規模拡大を含めた提携戦略、経営効率化の話ばかり。「新型リーフ」は電動化技術のトップランナーとしての矜持は感じたものの、全体の国内販売は長く伸び悩んでいます。いまの日産車は果たして30年~40年後も愛され続けるだろうか?正直な思いです。

「従業員の意識も含めて徹底的に検証する」…無資格検査問題について、西川社長はこのように述べました。もちろん現場は一所懸命だと思いますが、従業員の意識に変化は出ていないのでしょうか?原因究明はこれからですが、日産車からファンを熱くさせる何かが消えつつあること、今回の問題と根っこはつながっているのではないかと思えてなりません。規模拡大に進む一方で、大切なものを忘れていないか?今回の問題を機に立ち止まって考えるきっかけになれば…そして30年~40年後も愛される車づくりを願うところです。

日産本社

会見が行われた日産本社

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