ちょっと心配?日本の宇宙開発の足元

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【報道部畑中デスクの独り言】

みちびき3号 H2Aロケット

みちびき3号を載せたH2Aロケット打ち上げの瞬間 写真提供:三菱重工・JAXA提供

8月19日、鹿児島県の種子島宇宙センターから人工衛星「みちびき」3号機をのせたH2Aロケットが打ち上げられました。今回の3号機は、災害の際の安否情報を送信する機能を持ち、これまでの1号機、2号機のいわゆる「準天頂軌道」とは違い、静止軌道衛星です。みちびきの準天頂衛星システムが私たちの生活にどのような影響を及ぼすかについては6月に書いた「独り言」でもお伝えした通りです。
https://www.1242.com/lf/articles/54257/?cat=politics_economy&feat=report,hatanaka

また、ロケット(H2A、H2B)に関しては35機連続の打ち上げ成功で、成功率は97.6%となりました。打ち上げには内閣改造後まもない関係閣僚…林文部科学大臣、松山宇宙政策担当大臣も現地に駆け付け、成功後の記者会見で松山大臣は、「4基体制の確立に向け、さらなる一歩を踏み出すことができた」と話しました。そして、その4号機の打ち上げは10月10日に決まりました。4基体制が整うと来年度にはシステムが24時間体制で本格運用される予定です。今のところ「日本版GPS」構築に向けた歩みは順調のように見えます。

みちびき3号を載せたH2Aロケット打ち上げの瞬間 写真提供:三菱重工・JAXA提供

一方、今回の3号機は本来8月11日に打ち上げられる予定でしたが、天候のために1日延期、さらにロケットの不具合でさらに1週間延期されました。特にロケット側の原因で打ち上げが延期されるのはほぼ6年ぶりで、ヘリウムタンクの気密性が低下していたことがその理由でした。つまり、ヘリウムガスが外部に過剰に漏れている疑いがあったのです。

三菱重工業によると、タンクに貯められているヘリウムガスはその圧力でもってエンジン周辺のバルブを動かすために使われます。しかし、ガスが漏れていると、バルブに十分なガス圧が行き渡らず、最悪の場合はエンジン停止→打ち上げ失敗につながる可能性があるのです。今回の気密性低下は基準を上回るものではありませんでしたが、通常の約1.66倍に上っていたということで、いわば「念のため」の打ち上げ延期でありました。

打ち上げ後 記者会見

打ち上げ後の記者会見(鹿児島県・種子島宇宙センターの会見場とJAXA東京事務所をテレビ会議システムで接続)

その後、精査した結果、タンクを密閉するプラグに装着する金属製のシールに異物が付着し、隙間ができてしまったことが原因と判明しました。その異物とはタンクに断熱材を張り付ける接着剤の粒子だったということです。粒子はひと粒。接着剤だけにねばねばしており、大きさはわずか0.5ミリというものでした。

わずかな粒子一つでロケットの打ち上げが左右される…フィルターから出た粒子でバルブが目詰まりを起こし、エンジン停止につながったというのはドラマ「下町ロケット」の世界ですが、現実でもわずかな粒子が悪さをするということが起こるわけです。あらためて「宇宙開発の厳しさ」を感じるとともに、現場の緻密な危機管理には敬意を表します。

ヘリウムタンク 模式図

ロケット不具合の原因となったヘリウムタンクの模式図(三菱重工・JAXA資料より)

一方、打ち上げ成功後の記者会見では気になることがありました。三菱重工の担当者からヘリウムタンクの調達が遅れたことが明らかにされたのです。これが不具合につながったどうか断定はされていませんが、それによってロケットの組み立て手順が普段と違っていたということです。そして、ロケット打ち上げのペースが増えていることで、全般的に調達状況が厳しくなっている現実も示されました。これらの状況は今後のロケット打ち上げで不具合が起きる遠因にならないとも限りません。

国産ロケット、とりわけ主力であるH2A、H2B両ロケットの年間打ち上げ回数は21世紀に入ってこれまで多くても4回でした。今年はこのみちびき3号機の打ち上げですでに4回、10月の4号機の打ち上げで初めて年間5回目の打ち上げに挑むことになります。確実にペースは上がっています。

みちびき3号 H2Aロケット

みちびき3号を載せたH2Aロケット打ち上げの瞬間 写真提供:三菱重工・JAXA提供

一方、世界に目を転じますと、宇宙ビジネスをめぐる競争は激しくなっています。宇宙関連市場の成長率は世界で14%になるという見方もあります。こうした中、ロケットの年間打ち上げ回数は昨年2016年、アメリカが22回、ロシアは17回、これに中国が台頭し、何とアメリカと並ぶ22回を記録しました。中国は今年、30回の打ち上げを目指しているそうで、日本のこの分野では残念ながら後塵を拝していると言わざるを得ません。宇宙開発は何もロケットの打ち上げだけではありませんが、政府が宇宙関連市場に対する成長戦略を立てている割に、その実情は心もとないようです。背景には予算の不足のほか、ころころ変わる大臣に象徴されるように、政治や行政の世界に「目利き」が少ないこと、そして私どもメディアの報じ方もあるでしょう。

1回につき100億円単位の費用がかかるという大型ロケットの打ち上げ、もちろん「失敗は許されない」という関係者の思いがあります。だからこそ97.6%までの成功率を達成したと言えるわけですが、その分、現場関係者のプレッシャーは想像するに余りあります。

みちびきの華やかな成功の影で、日本の宇宙開発の足元は大丈夫だろうか…打ち上げペースの増加に伴い、現場(下請けも含めて)は疲弊していないだろうか…それは作業の効率化や工夫で解決できるのか…今回の打ち上げにあたり、いささかの懸念を感じたのも偽らざるところです。

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