【報道部畑中デスクの独り言】

柴又駅前で情報提供を呼びかける捜査関係者（1）

「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です」…ご存知、「男はつらいよ」、寅さんの決まり文句ですが、私ども記者にとっては柴又と聞いて忘れてはいけないのが、いまも未解決のあの事件です。

「柴又女子大生殺人放火事件」…いまから21年前の1996年9月9日、当時上智大学4年生の小林順子さんが何者かに殺害され、自宅が放火されました。

柴又駅前で情報提供を呼びかける捜査関係者（2）

当初はストーカーによる犯行説が有力とされていたものの、その後、自宅から現金がなくなっていたことがわかり、盗み目的も含め様々な観点からの捜査が行われました。これまでに、遺体にかけられていたふとんと、玄関先にあったマッチ箱のそれぞれについていたA型の血液が同一人物のものであることがDNA型鑑定の結果わかりました。また、事件直前には茶色のレインコートを着て玄関前に立つ不審な男が目撃されていたという情報があります。しかし、いずれも犯人の特定には至っていません。

当時の取材メモ・当時の新聞報道（1996年9月10日付　産経新聞朝刊）

私の手許には21年前に警視庁担当記者として取材したメモや、当時の新聞記事の資料があります。「葛飾・柴又　民家で火災　若い女性1人死亡　足をストッキングで縛られ、首に刺し傷　18時20分捜査一課長出る」…これが第一報のメモでした。

取材メモには近所の住民や捜査幹部からの情報として、順子さんについて「英語大好き　明るい子　あさって留学予定　アメリカ出発の予定だった」と記されています。また、留学前にどうしても日本のとんかつを食べようと、自宅近くのとんかつ店に家族で行ったこと、姉と日本の思い出に銭湯に行ったこと、「自分は絶対にホームシックになるだろう」…留学の寂しさをにじませていた日記の内容もありました。日記は9月8日、事件前日までしたためられていました。順子さんは将来メディア関係の職業を志望していたといいます。事件に巻き込まれなければ、我々と取材の現場をともにしていたかもしれません。

在りし日の小林順子さん

一方、事件現場周辺については「銭湯もあるが、夜はそんなに人通りはない」「ちょうどこの道は人があまり通らないところ」という住民の証言がありました。場所は帝釈天から300mほど離れた閑静な住宅地、さらに当日は小雨が降っており、いろいろな条件が重なって難事件となってしまったのか…取材しながらそんなことにも思いをはせました。このような凶悪な事件はいつ、どこで起きても、誰であっても決して許されるものではありません。しかし、現場に足を運ぶと、やはり、なぜここで？なぜ順子さんだったのか？と感じてしまいます。

献花式（左端は「順子地蔵」）

献花式で手を合わせる小林賢二さん（右端）

事件から21年、今年の9月9日も、現場となった自宅跡地では献花式が行われました。現場は現在、消防団の格納庫になっており、順子さんをしのんだ「順子地蔵」が建立されています。21年は順子さんの送った人生と同じ年月。「彼女が生きてきた人生とは、こんなにも呆気ないものだったのか？この地から、世界に羽ばたこうとしていた一人の若者の命と、夢と、希望を無残にも奪っていった犯人を絶対に許すことはできません」…順子さんの父親の小林賢二さんはあいさつで声を詰まらせました。一方で、賢二さんは13年前の茨城女子大生殺害事件の容疑者が先日逮捕されたことにも触れました。事件後に殺人事件被害者遺族の会「宙（そら）の会」を結成し、時効撤廃に向けて尽力してきた賢二さん。「次は我が家の番」と事件解決に望みを託しました。

警視庁・吉田尚正警視総監（左）（右は沖田芳樹・前警視総監）

就任の記者会見に臨む警視庁・吉田尚正警視総監

折りしも、警視庁の警視総監が今月15日に交代。新総監となった吉田尚正氏は警察庁刑事局長、警視庁刑事部長も歴任。就任会見では未解決事件の解決に強い意欲を見せました。それらの事件の筆頭に挙げたのがこの柴又の事件です。自らを「せっかちな性格」と評する吉田総監、これまでにのべ95,331人の捜査員が動員され、現在の捜査員は23人体制、いい意味で「せっかちな解決」を願うのは捜査関係者だけではありません。私が献花式の取材に訪れる途中、京成金町駅のホームでは「きょうはあの事件の日だな」と、年配の男性2人がつぶやいていました。事件は地元の人々の記憶にいまも残っています。

情報提供は警視庁亀有警察署特別捜査本部（TEL　03-3607-9051）。解決に結び付く有力な情報の提供者には、私的なものも含めて最大800万円の懸賞金が支払われます。

情報提供を呼びかけるボード