海の職人たちが気象情報の土台を支えています!【報道部畑中デスクの独り言】

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海の職人たちが気象情報の土台を支えています!【報道部畑中デスクの独り言】

啓風丸全景

天気予報の予測資料となる地上天気図には陸上だけでなく、海上にも風向や風速などのデータが記されています。
これらの観測には漂流ブイなど様々な方法がありますが、中でも歴史があるのが船による海洋観測です。

日本で観測船による海洋気象観測が始まったのは1921年(大正10年)。
実に100年近くの歴史がありますが、中でも東経137度線に沿った「定線観測」…志摩半島沖から赤道手前までの約3,400キロにも及ぶ大規模観測は今年で半世紀の節目を迎えます。

気象庁が保有する観測船は「啓風丸」と「凌風丸」の2隻、今回、このうちの一つ「啓風丸」に乗船する機会を得ましたので、今日はその取材記をしたためたいと思います。

船では天気図に記される気温、気圧、風なども観測されますが、中でも観測船ならではのハイライトは海洋の水質分析。
そこには機械だけではできない職人の世界がありました。

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CTD装置による採水作業

まずは採水…海水をくみ上げる作業。「ゆっくりクレーンを上げて下さい」「海水に投入します」「2メーター、4メーター」…36個の細長いグレーのボトルをぐるりと並べたCTD(Conductivity Temperature Depth Profiler)と呼ばれる装置を使います。
観測員が海水の流れも考慮しながらクレーンとワイヤーを使って、声掛けしながら慎重に装置を沈めていきます。

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CTD装置を海水を沈める

観測範囲は最大で実に水深6,000m。採水作業だけで6時間は優にかかるという根気のいる作業です。
装置をゆっくりと引き上げながら、様々な深さの海水がボトルに取り込まれます。
できるだけ多様なサンプルをとらなくてはなりませんが、海中では何があるかわかりません。
船内には水深が随時、モニターに表示されますが、海底に装置をこすって壊れたら一巻の終わり。
装置一式は約6,000万円だそうで、その距離感には長年の勘も要求されるそうです。

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採水後チェック

採水をしたら、分析用の瓶への移し替え。
水質は刻一刻と変わってしまうので、これも1~2時間以内に行わなくてはいけません。
観測員がテキパキと分析用の瓶に移し替えていきます。
移し替え作業は何と「素手」。
手袋をはめると滑りやすいからだそうですが、観測コースによっては北緯50度の地点まで向かうこともあり、ここまで行くと海水温は1~2度とまさに極寒。
脇に温水を置いて作業しますが「作業の中で単調で一番つらい」と経験者は漏らします。
肌が荒れても、ハンドクリームはご法度。分析の際にクリームの成分を混入させないためだそうです。

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分析用の瓶に水を移し替

分析作業はまさに研究室、実験室の雰囲気。
水温のほか、塩分(電気伝導度)、酸素、アルカリ度、全炭酸、水素イオン、リン酸やクロロフィルなどの栄養塩などのデータを専用の装置にかけて記録していきます。
これらの作業は2~3時間ほど。観測員は乗船中、毎日この繰り返しです。

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分析作業

スムーズな分析作業のためには操舵室の役割も重要です。
船員は船の進路に細心の注意を払うのはもちろんのこと、採水作業で装置が破損しないよう、装置が無駄に動かないよう配慮します。
船長の田辺恒さんによると「ワイヤーがきれいに海中に入るよう、船を次の波に"うまく乗せる"のが必要。習得するには2年はかかる。」…ここにも"職人"の世界がありました。

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操舵室(通称ブリッジ)

気象観測は数値予報の高度化に代表されるようにハイテク化が進みます。
観測船もかつては台風の定期観測が主な役割でしたが、台風予報も衛星画像の解析などが主流となり、観測船の役割も変わりつつあります。
船長の田辺さんは、海洋の水質分析によって、地球温暖化の進み方などを調べる研究手段としての役割を強調していました。
分析データは国連にも提供され、温暖化に関する国際的な研究の一端を担っています。
そして、その貴重なデータ取得は…結局人がモノを言う。
観測員・船員=海の職人たちが一体となり、研究の土台を支えています。

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