白鳥に魅せられ、毎朝その姿をカメラに収めている会社員のストーリー
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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今回は、毎年、冬になるとやって来る白鳥の姿に心奪われ、10年以上、早朝から近くの沼に通い、白鳥の写真を撮り続けている男性のグッとストーリーです。
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たくさんの白鳥と鳥達の憩いの場になっている多々良沼
群馬県・館林市と邑楽町(おうらまち)にまたがる多々良沼(たたらぬま)。沼の周りは豊かな自然に囲まれ、冬は白鳥が訪れる場所として知られています。この多々良沼の近くに住み、時には氷点下になる早朝から、白鳥が飛んでくるのを待って、その美しい姿をカメラに収めているのが、木下英海(きのした・ひでみ)さん・47歳。
「今年も元日の朝から毎日、沼に通ってます」という木下さん。かつてカメラを向けていたのは白鳥ではありませんでした。子どもの頃から鉄道が大好きで、列車の写真を撮る、いわゆる「撮り鉄」だった木下さん。好きが高じて高校卒業後、鉄道会社の関連企業に就職しましたが、2004年、勤務先の工場が館林市に移転。木下さんも引っ越すことになり「どうせなら緑の多いところに住もう」と選んだのが、多々良沼から歩いて5分ほどの所にあるアパートでした。
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10年以上、早朝の多々良沼で白鳥を撮影し続けている木下英海さん
ある日、洗濯物を干すためベランダに立った木下さん。すると上空から「コッコー、コッコー」という鳴き声が聞こえてきました。ふと空を見上げると、そこには綺麗なVの字を描いて飛んでいく白鳥の群れが……。その一糸乱れぬ美しい姿に、一瞬で心を奪われてしまった木下さん。
「あれ以来、鉄道の写真は一切撮らなくなって、白鳥一本になっちゃったんですねぇ。まさに、恋に落ちたんです(笑)」…それから、木下さんの生活は一変しました。白鳥たちが多々良沼で過ごす11月中旬から3月下旬までの間、毎朝、息も凍るような寒い中、カメラ片手に沼へ通い、朝7時過ぎにVの字で飛んで来る白鳥の群れをじっと待ち続けます。平日はその姿を撮ってから出勤。休日は、早朝から陽が落ちるまで、ファインダー越しに白鳥の姿を追いかけます。
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『Vの字飛行』
「白鳥がやって来る場所は、茨城や新潟、兵庫にもあって、遠征のためにワンボックスカーも買いましたが、やっぱり一番美しいのは、多々良沼ですね」という木下さん。その理由は。
「沼に沈む夕陽と、白鳥の取り合わせが最高に美しいんです。朝には富士山も見えますし、富士をバックに、羽を大きく広げて飛んでいく白鳥の姿は、本当に芸術的です」
毎年、沼に通っていると、白鳥とも顔なじみになります。素人目には区別が付きませんが、木下さんは「いつも来る白鳥は、見てすぐに分かりますよ。『ああ、今年も来たか!』と」
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『滲む富士山』
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『シルエット』
特に思い入れの深いのが、木下さんが「常連さん」と呼ぶ一羽。実はこの「常連さん」、ある日、釣り人が捨てていった、エサを入れるネット状のカゴを誤ってくわえてしまい、くちばしが開かなくなってしまいました。このままではエサも食べられず、餓死するおそれも…見かねた木下さんは、好物のパンくずで「常連さん」をおびき寄せて捕まえると、ネットを外してあげたのです。
「普通はすぐ離れていくんですが、常連さんは、助けてあげた後も私の周りにずっといて、その後も来るたびにそばに来るので、すっかり仲良くなりました」と笑う木下さん。
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木下さんと仲良しの「常連さん」 リラックスした横顔ですね
木下さんは現在、地元住民やカメラマンなど有志で作る「白鳥を守る会」に参加。沼に捨てられているゴミやビニール袋、釣り糸などを白鳥が飲み込まないよう、定期的に回収しています。活動を通じて、地元の人たちとも仲良くなり、一緒によその県へ白鳥観察に出掛けることもあるとか。
「白鳥のおかげで、新しい繋がりもできました。毎年、白鳥たちが安心して、この美しい多々良沼に降り立てるよう、これからも沼の環境を守っていきたいですね」
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「白鳥を守る会」のみなさん これからも美しい多々良沼に白鳥が降り立てますね
木下英海さん作品集
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『夕陽森の中へ』
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『湖上の滑走路』
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『離陸』
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年1月13日(土) より