番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今回は、伝統を活かしながら、新たなアイデアを盛り込んだ着物を創作。「現代の名工」に選ばれた和裁の職人さんの、グッとストーリーです。
千葉県松戸市にある和裁の専門学校「藤工房(ふじこうぼう)和裁学院」。その校長を務めるのが、加藤静子(かとう・しずこ)さん・72歳。和裁教室を営んでいた母親の背中を見て育ち、15歳でこの道へ入った加藤さん。以来半世紀以上、和裁ひと筋。仕立専門店「藤工房」も経営し、顧客の細かい注文に応じて着物を仕立てるほか、独自の工夫を凝らしたオリジナルの着物も創作。その高い技術が認められ、去年の11月、厚生労働省から「現代の名工」として表彰されました。
若い頃は「一日一枚、着物を仕立てること」を日課にして、技術を学んできた加藤さん。一枚仕立てるのにかかる時間は、およそ10時間。遊びに行く暇もなく、着物に向かい合って、技を磨いていきましたが、「つらいと思ったことはありません。自分が仕立てた着物でお客さんに『街でみんなが振り返ったわよ』なんて言われると、もう嬉しくて…」
戦後、普段着として和服を着る人が減っていき、和裁職人としては厳しい時代になりましたが、もっと素敵な着物を作ろうと、より難しい技術に挑戦、さらに腕を上げていった加藤さん。
その代表作の一つが、奄美大島の伝統的な着物「大島紬(おおしまつむぎ)」の柄を使った、「切り嵌(ば)め模様・大島訪問着」です。この作品に使われている「切り嵌め」という技術は、古い大島紬から、生地を切り取って何種類もつなぎ合わせ、それを無地の生地にはめ込み、模様を作っていくものです。「切り嵌め」はベースとなる生地を切り抜き、そこに寸分違わぬよう、模様をはめ込んでいくという高度な技。完成した作品を見ると、生地の上から柄を縫いつけていくパッチワークと違って、もともと一枚の生地だったかのように凹凸がなく真っ平らで、とても後からはめ込んだようには見えません。
「『こんな細かいこと、自分にはできないよ』と、どの職人さんにも言われます。私って、何か新しいものに挑戦するのが好きなんでしょうね」という加藤さん。好きなものを作っているときは、どんなに手間のかかる作業も、まったく苦にならないそうです。
そんな加藤さんが、大島紬の「切り嵌め」を始めたきっかけは、意外にも「バブル崩壊」でした。
「仕立の注文が、パタッと減ったんです。それまで忙しくしていたのが嘘のように時間ができましてね…」こういうときにこそ、自分が本当に作りたい着物を作ろうと考えた加藤さん。かねてから好きで、古着屋さんを廻って個人的に集め、保存していた大島紬の柄を、「切り嵌め」で新たに再生してみようと思い立ちました。特にお気に入りの作品は、大島紬から取った250枚近い柄を、階段状にはめ込んでいった着物です。
「2点作ったんですが、どちらも、奄美ではもう作っていない柄を使いました。根気の要る作業でしたが、どちらも売れて、お嫁に行きましたよ」と笑う加藤さん。お客さんから「この生地に、この着物の柄をはめ込んで」という注文を受けることもありますが「持ち込まれたものだけですと柄が合わなくて、しっくりいかないこともあるんですよ。そういう時は、私の手持ちの大島紬の柄を使います」
あるとき、切り嵌め用に、黒一色の大島紬の生地がどうしても欲しくなったことがありましたが、奄美では黒だけの生地は織っていないと聞くと、現地から泥染めの糸を取り寄せ、機械も買って、自分で黒い生地を織ったこともあります。なぜそこまでするのか、加藤さんは言います。
「古い着物って、洋服のように捨てられないんです。でも、ただ残しておくだけじゃなく、『再生して活かす』ことが、文化の継承にもつながるんじゃないでしょうか。これからも新しい作品に挑戦して、若い世代にも和服の魅力を伝えていきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年1月6日(土) より
番組情報
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