東京駅トップクラスの人気駅弁「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」がヒットに繋がった理由

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

画像を見る(全11枚) こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

2010年代以降、東京・大阪などのターミナル駅では、全国各地の名物駅弁が、ほぼ毎日、手に入るようになりました。いま、東京駅で人気を誇る地方駅弁の1つに、「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」(1580円)があります。この駅弁を作っているのは、青森・八戸を拠点とする駅弁屋さん。いったい、この駅弁はどのようにして作られているのか? 現地へ足を運んで、製造現場を見てまいりました。

E5系新幹線電車「はやぶさ」、東北新幹線・いわて沼宮内~二戸間

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「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第44弾・吉田屋編(第1回/全6回)

8月の旧盆、ふるさとへの帰省シーズンが近づいてきました。首都圏から新幹線や特急に乗ると、都会のビル群が遠ざかり、ふるさとの山々がだんだん大きくなってきます。やがて小さいころに見慣れたのどかな景色が広がると、ホッとされる方も多いことでしょう。東北新幹線で北上すると、二戸・八戸・七戸十和田の順に「へ(戸)」が付く駅名が3つ続きます。地元出身の方にとっては聞き慣れた駅の名前がアナウンスされると感慨深いものですね。

株式会社吉田屋

株式会社吉田屋

岩手・青森の「へ(戸)」と付く地名のなかで最大のまち、約22万の人口を擁する八戸を拠点に駅弁を製造するのが、「株式会社吉田屋」です。この地域に鉄道が通った翌年、明治25(1892)年創業、130年あまりの歴史を誇る老舗駅弁業者で、本社・工場は、八戸駅東口の前にあります。駅弁膝栗毛恒例「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第44弾は、この吉田屋に注目いたします。

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

毎年、数々の新作駅弁を発売している吉田屋。なかでも、平成27(2015)年に発売した「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」(1580円)は、いまではすっかり人気駅弁になりました。秀逸なネーミングも相まって、東京駅「駅弁屋祭 グランスタ東京」はもちろん、東海道新幹線改札内の売店でも販売されており、それぞれトップクラスの人気を誇ります。今回は八戸駅前の調理場で、こちらの駅弁の盛り付けを見せていただきました。

ご飯の盛り付け

ご飯の盛り付け

もちろん最初は、白いご飯からスタートです。使っているお米は、青森県産の「まっしぐら」。「まっしぐら」は、平成18(2006)年にデビューした青森のブランド米の1つです。令和元(2019)年度には食味ランキングで特Aを獲得、味に定評があります。そのご飯をしっかり計量し、手際よく盛り付けていきます。吉田屋によると、数々の駅弁のなかでも「白飯」を届けることが、じつは最も難しいと言います。

「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」の製造風景

「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」の製造風景

白飯を盛り付けると、おかずの厚焼き玉子、野沢菜辛子漬け、しば漬けなどを入れ、ご飯の上には鮭そぼろを載せていきます。作り手の皆さんは、あえて隣の方との間隔を詰めた状態でシフトに入ります。じつは作り手の皆さんの無駄な動きを省き、1人が同じ位置に同じものを盛り付けることが作業ミスの防止につながると言います。また、美しい盛り付けを実現するため、社長さんが毎日SNS等も活用し、全ての弁当をチェックされるそうです。

ハラス焼きに続いて、いくらを盛り付ける

ハラス焼きに続いて、いくらを盛り付ける

いよいよ脂がのったサーモンのハラス焼きが載せられて、この駅弁における最大の魅力、“こぼれイクラ”が1つ1つ、ハラス焼きの真ん中にとろ~りと載せられていきます。そして、乗り切れなかったイクラがすぐそばからこぼれて、白いご飯の上を埋めていきます。もう、見ているそばからいただきたい気持ちが抑えられなくなってしまいそうです。この“イクラがこぼれる瞬間”を駅弁売店で想像させる“商品名”の力の強さがみなぎっていますね。

「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」の包装作業

「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」の包装作業

全ての食材が盛り付けられると、シートが挟まれ、透明な蓋がされて、スリーブ式のパッケージが施され、「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」の完成です。このあとは、八戸駅をはじめ、東北新幹線、東海道新幹線の主要駅へと出荷されていきます。じつはこの厚さのサーモンハラスを確保するのは、とても大変だそう。ちなみに現在、八戸駅等では、イクラに北海道産の大粒イクラを使用したグレードアップ版も販売されています。

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

画像を見る(全11枚) こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

【おしながき】
・白飯(青森県産まっしぐら使用)
・鮭ハラス焼き
・いくら醤油漬け
・鮭そぼろ
・厚焼き玉子
・野沢菜辛子漬け
・しば漬け

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当

「いまは、名物がない時代と云われ、同じものを続けて売っていくのが難しくなりました」と話すのは、吉田屋の吉田広城社長。そのなかで「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」は発売から丸8年を迎えて、すっかり東京駅の「駅弁屋祭 グランスタ東京」でもトップクラスの人気を誇る駅弁に成長しました。じつは最初、東京駅での取り扱いは、1日わずか20個だけだったと言います。

E5系新幹線電車「はやて」、東北新幹線・八戸駅

E5系新幹線電車「はやて」、東北新幹線・八戸駅

吉田社長は、「こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当」がヒットにつながった背景を、「クオリティにこだわったこと」と分析。「回転寿司では、脂がのったサーモンが当たり前になっているいま、お客様の“美味しい”に応えていかないと」と力強く話します。東北新幹線八戸開業、新青森延伸、北海道新幹線開業と大きく変化した約四半世紀にわたって、吉田屋の経営を担っている吉田社長に、次回からたっぷりお話を伺います。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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