番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、連日、熱戦が展開されている平昌オリンピック。今回はスピードスケートで、3人の選手を平昌に送り出した、名門チーム監督のグッとストーリーです。
長野オリンピック金メダリストの清水宏保(ひろやす)選手はじめ、これまで30人以上の選手を冬季オリンピックに送り出し、数々のメダリストを輩出してきた名門・日本電産サンキョースケート部。今回、平昌にも男子500m・1000mでメダルを目指す長谷川翼選手をはじめ、3人の選手が出場しますが、彼らを指導したのが、今村俊明監督・55歳です。
「今回は、3人ともメダルを獲る可能性がありますよ。楽しみにしていてください」という今村監督。大学生のときサラエボオリンピックに出場し、三協精機(さんきょうせいき)に入社。引退後、一時会社を離れていましたが、1998年、監督として古巣に呼び戻されました。当時はエース・清水宏保選手が退社した直後で、新たなメダリストの育成を託された今村監督。その頃、三協精機は経営状況が厳しく、スケート部も廃部の危機に立たされましたが、日本電産と資本提携。部の存続を決めたのは、日本電産の永守重信会長でした。
「永守会長はとにかく熱い方で、スケート部を全面的にバックアップする代わりに、『やるからには一番を目指せ!』と叱咤激励も受けました」という今村監督。会長に100回会えば、99回は叱られたそうですが、しかしそれが会長流の熱いエールだと分かっていました。
その後今村監督は、世界トップレベルのスケーター、長島圭一郎選手と加藤条治(じょうじ)選手を育て上げましたが、2009年、バンクーバーオリンピックの前哨戦となる大会で、二人が思わぬ惨敗を喫してしまいます。その報告会の席で、今村監督に対して、永守会長のカミナリが落ちました。
「選手が成績を出せないのは、お前の責任やろ! もう、監督解任や!」
周囲が凍り付く中、「これで引いたら負けだ」と思った今村監督は、こう反論しました。
「僕が日本で一番の監督なんです! 今いる選手に、メダルを獲らせるのは自分しかいません!」
……静まりかえる会議室。啖呵を切った今村監督に、永守会長が返したのは、意外な言葉でした。
「そうや、その自信が大切なんや! ……わかった。もう一度だけ、お前に騙されてみよう」
「解任」という厳しい一言の真意は「選手と一丸となって、絶対にメダルを獲るという覚悟があるのか?」。そこまで言ってくれた会長の情熱に対し、同じく情熱をもって答えた今村監督。思いは一つでした。
迎えたバンクーバーオリンピック本番、男子500mで、長島選手が銀メダル、加藤選手が銅メダルとともに表彰台に立つ快挙を果たします。試合直後、すぐ永守会長へ報告のメールを送った今村監督。返ってきたメールには、こう書いてありました。「君こそ、有言実行の男だ!」。今村監督は言います。「本当に、そのときが初めてですよ。ちゃんと褒めてもらったのは」。しかし、心残りが一つだけありました。それは「金メダルを獲れなかったこと」。
「永守会長の口グセは『一番以外はビリだ!』。バンクーバーでは褒めてもらいましたが、金メダルを獲らないと、本当に認めてもらったことにはならないですから」。
一時、監督を勇退し、会社の総務部に勤務していましたが、再びスケート部に呼び戻されたことで、唯一獲れなかった勲章を今度こそ、という思いが湧き上がってきました。
「会長には『お前、まだおるんか! しつこいやっちゃなあ!』と言われました(笑)」
今回、日本電産サンキョーからは、金メダル候補の長谷川翼選手、ウィリアムソン師円選手、高木美帆選手のお姉さん・高木菜那選手の3人が出場します。いつも試合前に選手と「グータッチ」をして、リンクへ送り出す今村監督。
「菜那は負けん気が強い性格で、グータッチを押し返してくるんですよ(笑)」
今回は初めて、観客席から見守るオリンピックになりますが、選手と心は通じ合っています。
「会社には、もう一度チャンスを与えてもらえたことに感謝しています。やるべきことはやりました。あとは選手を信じて……獲りたいですね、金メダル」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年2月17日(土) より
番組情報
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