番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
今回は、おととしの暮れ、糸魚川(いといがわ)の大火で全焼した老舗の酒蔵を復興させるため、一から酒造りを学び、蔵元の兄を支える弟のグッとストーリーです。
新潟県糸魚川市(いといがわし)にある、老舗の酒蔵「加賀の井(かがのい)酒造」。江戸時代に創業、360年以上続く、新潟県内の酒蔵の中で有数の歴史を持つ酒蔵です。加賀百万石の三代目・前田利常公が、参勤交代でこの地を訪れた際、献上されたお酒を、「おいしい」と気に入り「加賀の井」と名付けたという逸話が残っており、敷地内に湧くおいしい井戸水を使っているため、味わいのある中、すっきりした飲み口が特徴です。
しかし、おととし12月22日に発生した「糸魚川大火」の被害を受け、酒蔵と社屋が全焼。出荷予定だった合計3千本に、仕込み用のタンクおよそ10個を、すべて失ってしまいました。焼け跡を見て茫然とする18代目の蔵元・小林大祐(だいすけ)さんの横で、同じく言葉を失っていたのが、大祐さんの弟・小林久洋(こばやし・ひさひろ)さん・32歳。
「ショックを通り越して、もう頭の中が真っ白になりました。こんなことがあるんだ? と」
久洋さんがそう思うのも無理はありません。久洋さんは火事が発生する1週間前、兄のもとで酒造りをしようと、8年間勤めた製薬会社を辞め、故郷に戻ったばかりでした。しかも会社を辞める10日前に長男が誕生。父親になったときに、いきなり働きの場と修業の場を失ってしまったのです。
しかし、いつまでも茫然としてはいられません。おいしい水が湧くこの場所で、もう一度、加賀の井酒造を再建しようと決意した兄・大祐さんの力になろうと、久洋さんも、よその酒蔵へ修業に出ることに決めました。さっそく受け入れ先を探しましたが、すぐに手を挙げてくれたのが、岩手県の酒蔵・廣田酒造店(ひろたしゅぞうてん)でした。加賀の井酒造とはほとんど付き合いがなかったにもかかわらず、「東日本大震災で被災したとき、よその酒蔵に助けてもらった。今度はうちがお返しする番だ」と、久洋さんの受け入れに応じてくれたのです。
久洋さんは去年の1月下旬から岩手に移り、4月上旬まで3ヵ月近く、住み込みで働き、麹(こうじ)の管理方法など、酒蔵で働いていくための基本事項を身に付けていきました。
「岩手では、震災の被害を受けて、ゼロから建て直した酒蔵も見学させてもらったんですが、『明るく、前を向いて行った方がいい』という親身のアドバイスは、心に響きましたね」
岩手での修業を終え糸魚川に戻ると、今度は加賀の井酒造が契約している新潟県見附市のコメ農家から「うちで米作りを学ぶといい」という申し出がありました。ここで作っている「白藤(しらふじ)」という新潟産の酒米(さかまい)は、芳醇な味を演出する、加賀の井にとって欠かせないお米。自ら田んぼで働くことで、農家がどれだけ、お米に思いを込めて作っているかを知ることができる。それは酒造りの上で、必ずプラスになる……久洋さんは5月から秋まで見附市に何度も足を運び、田植えから収穫まで、「白藤」のコメ作りを体験。
「そのお陰で、このコメで美味しい酒を造りたいという思いが、より強くなりましたね」
その間、加賀の井酒造の再建に奔走していた兄の大祐さんは、富山県の酒蔵・銀盤酒造の設備を借りて、酒造り再開にこぎ着け、去年の5月、まずは顧客向けに『加賀の井』四合瓶4千本を出荷。そして去年の11月、二度目の酒造りには久洋さんも参加。現場を預かる父親の幹男(みきお)さんが指導に当たりました。
「ここまで来ることができたのは、弟がいてくれたお陰。二人だから乗り越えられた」という兄の大祐さん。酒蔵の再建工事も順調に進んでおり、2月には元の場所に、新工場が完成する予定で、自慢の井戸水を使った、本来の「加賀の井」がいよいよ復活します。久洋さんは言います。
「火災のあと、『応援してるよ』『待ってるからね』という声を、たくさんいただきました。もう一度、おいしいお酒を造ることが、復興への何よりのアピールになります。もっともっと酒造りを学んで、糸魚川で日本一の酒を造っていきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年1月20日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
今、聴きたい曲を書いて送ってくださいね。