習近平国家主席が構想する“強軍思想”とは?
公開: 更新:
3/6(火)FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!②
国防費は前年の8.1%増
7:10~やじうまニュースネットワーク:コメンテーター富坂聰(ジャーナリスト・拓殖大学教授)
中国で全人代が開幕~習近平国家主席の終身支配体制が確立か
日本政府は、中国北京で昨日開幕した全人代(全国人民代表大会)の推移を、注意深く見守っている。中国の憲法改正を通じ、習近平国家主席による終身支配体制が確立する可能性が高いと見て、情報収集を本格化させる方針である。
日本の国会に相当する全人代が、昨日北京の人民大会堂で開幕し、政府は新年度予算案で、およそ18兆3,000億円という国防費を計上しました。国防費は前年度より8.1%増加しています。
李克強首相は政府活動報告で、今年のGDP(国内総生産)の成長率目標について、去年の目標を据え置き、6.5%前後とすることを表明しました。国防費が8.1%増ですので、GDPの6.5%を上回る水準ということです。
李克強首相は政府活動報告の中で、「“習近平強軍思想”、強い軍の思想の指導的地位を確立する」と強調しました。李克強首相は、保護貿易主義に反対し、自らの合法的な権益を断固として守るとも述べ、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限方針を表明したアメリカのトランプ政権を牽制しました。政府活動報告は2時間近くに及んだのですが、その後国家主席の任期を連続2期10年までとする、事実上の3選禁止規定を撤廃する憲法改正案が全人代に提出されました。こちらは11日に採択されることになっています。
習近平さんはひな壇中央の椅子に座っており、表情を崩すことはありませんでした。また、習近平さんの腹心で、国家副主席への就任が確実視されている王岐山さんも、政治局常務委員に次ぐ、序列8位に当たる場所に着席していました。
国家主席と国家副主席は、17日に選出される予定になっています。菅官房長官は昨日の記者会見で、中国の軍備増強方針について、次のように述べています。
日本政府は中国の国防費の増加に警戒
菅官房長官)政府としては引き続き、重大な関心を持ちながら、中国に対して国防政策の透明性の向上を働きかけていきたいと思います。
中国の国防費には、空母などの大型兵器、それから研究開発費が含まれておらず、民間の軍事的なAI(人工知能)にいくら投資しても、国防費には反映されないとされています。中国軍はAIやビッグデータなどのハイテクを重視し、民間との融合を進めています。
こうした中、アメリカの原子力空母カール・ヴィンソンが、南シナ海に面する、ベトナム中部ダナンの港に寄りました。アメリカ空母がベトナムの港に立ち寄るのは、1975年のベトナム戦争終結以来初ということで、中国を強く牽制するねらいがあると見られています。
いち早い戦力のハイテク化を進めたい中国
高嶋)まず、中国の強軍……戦って勝てる軍隊にする、と。兵力は30万人減。国防費は8.1%で、実質的には増えた分だけで言うと日本円で1兆円だということです。アメリカのトランプさんの方は、7%増の65兆円。金額ではぜんぜん違うわけですが。
この「中国軍、進む近代化」というのは、人によっては「いまさら空母を作っても関係ない。サイバー戦だ! 宇宙戦だ!」みたいなことを言う人もいますが、富坂さんはどう捉えていますか?富坂)いまさら空母、というのは現実的ではないような気がします。東シナ海周辺の国とかには圧力として使えるでしょうけど、実際に戦争する意味では使えないのではないですかね。海上の標的になるだけだと思います。
高嶋)「勝てる軍隊にする」というのは、具体的にどんな危機感を持っているのですか?
富坂)これは理想を言えば、30万人ではなく半分以下に兵力を減らし、それを全部ハイテク部門に持って行きたい。これは90年代から始まっている願望なのです。
高嶋)これ、230万人と言われていますよね。それを半分以下にしなければいけない?
富坂)ええ。「その余った金でハイテク化を進める」とずっと言っているのだけど、実際にはできない。だから、人件費を払いつつハイテク化も進めねばならず、ブクブク膨らんでいく……構造として、そういう物があると思います。
一方、ハイテク兵器の方はすごく進んでいますね。習近平が出てきたとき、「強軍とは、時代錯誤なことを言う人だな」と思ったのですが、意外にもこれが当たり前に聞こえてくるようになってきていますから。
残念なことに、中国というのは1996年の台湾海峡危機のときに、米空母に入られ、自分が我慢しなければならない状態を体験して以降、常に最終的なキャッチアップは米軍になっているので。日本から見ると、過剰なものがドンと出てくるというか、目指していく方向がそっちに行ってしまっているので……だから、宇宙からサイバーまで全部手を広げていく、そういうメニューになっているのでね。中国国内でも習近平に対して警戒心は非常に強まっている
高嶋)全員が習近平に恐れ入っていますが、なぜですか?
富坂)たとえば、今回の終身制みたいな形で受け取られたことに関しては、批判までは行かずとも、非常に警戒感が強いですよね。
中国のニュースではニュースの項目の下に多くのコメントがつくのですが、本来は習近平が新しいのを出すと「いいね!」がバッと出るのですよ。まあ、これは書かせているのもあるんですが。それが最近、すごく少ないのです。実はこれは「削除しなければいけないコメントが多いから」なのです。そういう風に見ていくと……高嶋)単純に思うのは、王岐山さんが序列8位だった。それで「蠅も虎も叩く」と言ってきた。中国は共産党が唯一の政党の国家ですから、みんな共産党員が悪いことし放題みたいになっていて。それでバンバン中央委員まで引っ張られ、やられた。あそこに並んでいる連中、全員スネに傷を持っていると思うのです。すると、もし習近平に反旗を翻したら、逮捕されて何をされるか分からない。「憲法改正、けっこうです! 今度、天安門の毛沢東の写真も変えましょう!」とか、そのうちなっていくのでは?
富坂)ハハハ。実は「みんなスネに傷を持っているので、何かあるときは規律検査でやる」というのは、習近平時代よりも前からそうなのですよ。
さらに言うと、憲法改正も、5年に1回の党大会の変化を受け、必ずやらなければいけないことなのです。経済発展を巡る政治的リスクを無理矢理押さえつけているのが現状である
富坂)ただ、国家主席の任期撤廃というのは、実は習近平がこれまでやってきた政治は左。どういう意味かというと、「昔に戻す」。それで、経済は右。それが本当に、「政治と経済を分離させて、左に行く影響を受けないのか?」というのが心配しているわけです。今回の主席の任期を改正しようとしているのは、ちょっと本当に洒落にならない左が来ているのではないかな、と。実際、トップの考え方というのが、言論界を元気づけてしまう。これは日本でもあることです。
たとえば習近平は毛沢東的なことを言いますよね。すると、毛沢東的なことを、礼賛していた人が大声をあげはじめるのです。去年12月なんか、「個人財産を否定して、国有財産だけでいい」と言い出す人や、「個人財産を取り上げてしまえ」と言い出す人たちまで出てきているのです。そういうことになってくると、いちおう社会主義の旗を掲げている国で商売をやっている人はドキドキしてしまう。そういうところで、後ろに持って行く政治は本当に政治だけなのかな、というところで心配が出てきてしまう。これが今回のことだと思います。高嶋)アメリカのトランプ大統領が、鉄鋼とアルミニウムに25%もの関税をかけると言っていますが、中国が発展してきたのは、共産主義も立派かもしれないけれど、やはり経済ですよね。日本に来る中国人も、衣食足りて礼節を知る、みたいな感じのいい中国人がこの頃増えてきている。それもお金持ちになったからじゃないですか。この辺、どうなっていきますか?
富坂)結局、経済発展というのは、どうしてもマストというのは、していない国もありますが、ようするに一部の人を豊かにしても、下に膨大な貧困層を抱えているわけですよね。この人たちを豊かにしていく方法がないので、政治的には左であり続けるしかないのですよ。この矛盾が、ずっと解けない中国の難問なのですよ。そこのところで政治が揺れたりする……いま上空で暖気と冷気がぶつかっていますが、その低気圧が発生するようなことが、政治的リスクとして起きてくる。それを無理矢理、力で押さえているのが中国の現状なのです。
高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00