「私が歌うと艶っぽく聞こえないから大丈夫」岩崎宏美が選んだ『ロマンス』

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第9回  岩崎宏美『ロマンス』

最近、ますます加熱するアナログ盤ブーム。そしてシングル盤が「ドーナツ盤」でリリースされていた時代=昭和の楽曲に注目する平成世代も増えています。
子供の頃から歌謡曲にどっぷり浸かって育ち、部屋がドーナツ盤で溢れている構成作家・チャッピー加藤(昭和42年生)と、昭和の歌謡曲にインスパイアされた活動で注目のアーティスト・相澤瞬(昭和62年生)が、ターンテーブルでドーナツ盤を聴きながら、昭和の歌謡曲の妖しい魅力について語り合います。

チャ:「バンザーイ!!……ナシよ」って、ホントよくできたフォローだよなー。こんにちは、チャッピー加藤です。

相澤:あ、『スター誕生!』の欽ちゃんですね? こんにちは、相澤瞬です。

チャ:そう。決戦大会で1人に何社も札が上がることもあれば、1つも上がんないこともあるのが、ガチンコな感じでよかったのよ。オレは『スタ誕』で、社会の厳しさを知ったなー。

相澤:僕が生まれる前の番組ですけど、決戦大会、リアルタイムで観たかったです!

チャ:でも審査員の阿久悠さんとか、出場者へのダメ出しが容赦なかったからね。ローティーンの女の子に「あなたはどういうつもりでこの場に立ってるの?」とか、歌以外のことまでビシビシ詰めてたもんなー(笑)。

相澤:うわー、キビシー!

チャ:そういう厳しさを中和してたのが、萩本欽一さんの司会だったのよ。「バンザーイ!!……ナシよ」で上半身をこう、クッと曲げて……イテテっ、背中ヒネった!

相澤:チャッピーさん、体硬すぎ!(笑)もっと運動しましょうよ。

チャ:てなわけで、今回もニッポン放送のスタジオから、文字だけの「なんちゃって放送」でお送りしまーす。じゃいくよ、瞬くん!……せーの!

二人:「音声……ナシよ!」


■「ありえない」阿久悠ワールド

チャ:で、『スター誕生!』といえば、やっぱ中3トリオとこの人だなー。今回取り上げるのは、この曲!

チャ:1975年7月25日発売、岩崎宏美・2枚目のシングル『ロマンス』。阿久悠作詞・筒美京平作曲。歌謡界のビッグモンスター同士が手掛けたこの曲で、初のオリコン1位に輝くんだけど、瞬くん、この曲好きなんだって?

相澤:そうなんですよ!『シンデレラ・ハネムーン』で岩崎宏美さんに興味を持って、ベスト盤を頭から聴いていったんですけど、最初に引っ掛かったのが『ロマンス』なんです。

チャ:なるほどー、そういう入り方かー。これがデビュー曲だと思ってる人が意外に多いんだけど(※正解は『二重唱(デュエット)』)、それだけインパクトが強いってことだよね。さっそく、当時のドーナツ盤で聴いてみよう。

(♪ターンテーブルに乗せて、演奏)

相澤:もうイントロからいきなりカッコいい!大好きな一曲です。 この曲、チャッピーさんはリアルタイムですよね?

チャ:うん、小学3年生だった。第一印象は「歌、うめー!」だったなー。中3トリオも上手かったけど、岩崎宏美は群を抜いてた。当時まだ16歳だよ。

相澤:この曲、構成が複雑だし、難易度がかなり高いのに、サラッと歌いこなしちゃってますもんね。16かー……。

チャ:『スタ誕』のいちばんの功績って、中3トリオを生んだことと、岩崎宏美を発掘したことだと思うけど、彼女がデビューしたことで、番組のステータスがグッと上がったのよ。麻雀で言うと「リャンハン乗って満貫になった」感じ(笑)。

相澤:あと、この詞ってどっぷり「阿久さんの世界」ですよね? 現実世界のどこにおんねん!みたいな(笑)

チャ:確かに、男に「お願い、席立たないで!」「息がかかるくらいそばにいて!」って、16歳に何歌わせてんねん、オッサン!だよなー(笑)。

相澤:「生まれて初めて男性に愛されることで、自分は綺麗になっていく」っていう部分も、最高です(笑)16ぐらいの子が、普通そんなこと思わないですよね?

チャ:てかさ、このタイトルにしたのがそもそもスゴくて、そうか、『ロマンス』か。大上段の構えで来たなー、って(笑)。

相澤:松本隆さんの『木綿のハンカチーフ』もありえない女性像だけど、納得できるというか。そういう映画みたいな美しい世界も「あるかも」と。

チャ:うんうん、わかる。

相澤:だけど、阿久さんの描く世界は、現実には「ない」、全世界中の男の夢を強調しているような気がして(笑)。……当時って、こういう価値観は普通だったんですか?

チャ:いやいや(笑)。だけど、こういう歌が出てくることには別に違和感はなかったなー。ま、そういうもんなんだろな、と。

相澤:僕は別に、それが悪いとはまったく思ってなくて、むしろ最高だと思っているんですけど、当時ってホントにそういう時代だったのかな?って、ちょっと気になったんです。

チャ:というか当時は、「歌謡曲はそういうもんだ」っていう共通認識が世間にあったのね。そこにツッコむ人はいなかったんだよ。

相澤:今だとみんな、揚げ足をとりたがりますもんね。そういうのがない、っていうのも、僕は素敵だなと思います!

チャ:まあでも、瞬くんが感じた「違和感」はスタッフの間にもあったみたいで、筒美京平さんは「この内容は大人すぎないか?」とB面曲の『私たち』をA面に推したのね。

相澤:あー、やっぱり! ちょっとB面も聴いてみていいですか?

(♪レコード裏返して、ターンテーブルで演奏)

相澤:こっちはさわやかで、直球な感じですよね!こちらも素晴らしいです…!

チャ:でも阿久さんは『ロマンス』推しで、スタッフの間でどっちをA面にするか投票したのよ。そしたらみごとに票が二つに割れたんで、「じゃ、本人に決めてもらおう」ってことになったんだって。

相澤:へー、じゃ、宏美さんが『ロマンス』を選んだんだ!

チャ:そう。歌詞の内容じゃなく、楽曲自体の「歌いやすさ」で決めたみたい。「歌詞が16にしては艶っぽすぎないか?」って意見には、「私が歌うと、そんなに艶っぽく聞こえないから大丈夫」と。

相澤:はー、恐れ入ります! 宏美さん、スゴいなー。

チャ:思うに阿久さんも、いかにも清純派のような歌詞じゃツマらない。何か波風立てるものを、ということで、あえて「ありえない物言い」を入れたんじゃないかな?

相澤:そうか、宏美さんが歌うことで、ほどよい按配になるっていうのも、阿久さんはちゃんと計算に入れてたんですね。

チャ:その意図を、ちゃんと理解して歌ってた宏美さんも素晴らしい!……あと、このジャケットのタイトルもいいよね。「ロ」「マ」「ン」「ス」の字の上んとこが、ぜんぶ波打ってるじゃん(笑)。

相澤:昭和の字体ですね! このフォント、欲しい!(笑)


■「京平ディスコ」の先駆作

チャ:曲については、瞬くんはどう思った?

相澤:むちゃくちゃ「ディスコ」ですよねー。すごく好きです! アレンジも筒美京平さんで、攻めてるなーって思いますけど、当時って日本はもうディスコブーム全盛だったんですか?

チャ:ブームは来つつあったけどまだ入口で、『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)が大ヒットする2年前だから、けっこう早いよね。さすが元洋楽ディレクター、耳の早い京平さんですよ。

相澤:歌謡曲にいち早く、最新の洋楽のエッセンスを取り込んでたんですね。

チャ:そう。それを「パクリじゃん」という人もいるけど、わかってない! 京平さんは、洋楽を日本人向きに咀嚼して、耳になじむ歌謡曲にしてるんだよ。オレは「洋楽の歌謡化」と呼んでるけど(笑)。

相澤:確かにこれ、ホーンセクションが立ってるし、京平さんの意欲を感じますけど、間奏の「♪ラーラーラー」っていう女声コーラスは歌謡曲っぽいですよね。

チャ:当時流行ってたフィリー・ソウルの匂いも感じるけど、これ、曲が先なんだって。つまり阿久さんは、先端行ってるこの曲に、あえて力技で「阿久ワールド」な詞を乗せたわけだ。

相澤:まさにプロ同士の「覇権争い」ですね(笑)。

チャ:そんなふうに大御所同士が主張し合ったのも、それだけ歌手・岩崎宏美の才能が図抜けていたからで、それをサラッと歌いこなしちゃう16歳の彼女も、またプロだよねー。 なにこのレベルの高さ(笑)。

相澤:『ロマンス』の次に出た『センチメンタル』(1975)も、僕好きなんですけど、あれも頭からバリバリにディスコですよね。

チャ:オレも大好き!『ロマンス』より好きかも。聴こう!(笑)

(♪ターンテーブルに乗せて、演奏)

チャ:いやー、いいわー! ノッケからグッと来る! そしてポテンシャルが高い!「京平ディスコ」っていうククリだけで10週ぐらい語れるけど、その一翼を担ったのは、間違いなく岩崎宏美ですよ。

相澤:じゃあチャッピーさん、来週は「京平ディスコ」の集大成でもある“あの曲”について、たっぷり語り合いましょう!

チャ;OK! 一緒にフィーバーしようぜ!……言ってて恥ずかしくなってきたゾ(笑)(笑)。また来週もよろしく!

……次回は、岩崎宏美『シンデレラ・ハネムーン』について二人が熱く語ります。お楽しみに!

【チャッピー加藤/Chappy Kato】

昭和42年(1967)生まれ。名古屋市出身。歌謡曲をこよなく愛する構成作家。好きな曲を発売当時のドーナツ盤で聴こうとコツコツ買い集めているうちに、いつの間にか部屋が中古レコード店状態に。みんなにも聴いてもらおうと、本業のかたわら、ターンテーブル片手に出張。歌謡DJ活動にも勤しむ。
好きなものは、ドラゴンズ、バカ映画、プリン、つけ麺、キジトラ猫。

【相澤瞬/Shun Aizawa】

昭和62年(1987)生まれ。千葉県出身。懐かしさと新しさを兼ね備えた中毒性のある楽曲を、類い稀なる唄声で届けるシンガーソングライター。どこまでもポップなソロ活動、ニューウェーヴな歌謡曲を奏でる「プラグラムハッチ」、 昭和歌謡曲のカバーバンド「ニュー昭和万博」など幅広く活動。
好きなものは、昭和歌謡、特撮、温泉、うどん、ポメラニアン。


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