【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第447回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、7月14日公開の『最後のランナー』を掘り起こします。
イギリスの英雄から宣教師へ... 栄光と軌跡を描いた感動作
エリック・リデルという人物をご存知でしょうか。スコットランド人宣教師の息子として中国・天津で生まれた彼は、イギリスの元陸上競技選手。1924年、パリオリンピックに出場し、男子400メートルで金メダルを獲得しました。
彼の活躍は、アカデミー賞作品賞ほか4部門を受賞したヒューマンドラマ『炎のランナー』でも描かれました。敬虔なクリスチャンであるエリックが日曜日に行われる100メートル走への出場を辞退し、代わりに出場した400メートル走で劇的な勝利を成し遂げたエピソード、そして内に秘めた信念と尊厳は、観る者の心を大きく揺さぶりました。劇場公開から30年以上経った今でも、『炎のランナー』をマイベストに挙げる映画ファンも多いのではないでしょうか。
しかしその後、リデルがどのような人生を送ったかは、語り継がれていません。実は彼は、スポンサー契約を申し出てきた数多くの有名企業の誘いを断り、宣教師として自らの出生地でもある天津へと赴いたのです。
そんな意外と知られていない、一躍国民的ヒーローとなったエリック・リデルの驚くべき真実に迫り、その波乱万丈の軌跡を今に伝える映画が『最後のランナー』。これは、あの普及の名作の“その後”の物語なのです。
アスリートとしての栄光を捨て、宣教師として生きる道を選んだエリック・リデル。しかし1937年、日本軍が天津を占領するなど、戦争の波はすぐそこまで迫ってきており、中国における外国人を取り巻く状況は悪化。リデルも大勢の欧米民間人とともに、収容所に入れられてしまいます。それでもなお、“走る”ことで不屈の情熱と信念を示し、人種も世代も分け隔てすることなく他者を思いやり、敵兵のためにも祈りを捧げたリデルの生き様が、本作ではあますところなく描き出されています。
エリック・リデルを演じたのは『恋に落ちたシェイクスピア』や『エリザベス』などで知られるイギリスの実力派俳優ジョセフ・ファインズ。アスリートを引退後も信仰のために走り続けた聖職者の軌跡を、繊細かつ力強く体現しています。
無限の可能性を秘めた若きランナーは、なぜアジアの新天地へと旅立ったのか。『炎のランナー』で世界中に感動を与えたリデルの高潔な人物像は、再び観る人に鮮烈な印象を残すことでしょう。
この映画を通じ、リデルの“その後”と対面して、あなたは何を思いますか?
最後のランナー
2018年7月14日(土)から有楽町スバル座ほか全国順次公開
監督:マイケル・パーカー&スティーヴン・シン
撮影:チェン・チュウキョン
出演:ジョセフ・ファインズ、ショーン・ドゥ、エリザベス・アレンズ、小林成男 ほか
©2017 Goodland Pictures © 2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite
公式サイト http://saigo-runner.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/