ご主人の意思を引き継ぎ、「かねとうパン店」でパンを焼き続ける店主のストーリー

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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは、亡くなったご主人が創った味を独学で再現。おいしいパンを焼き続け、地元の人たちに愛されているパン屋さんの、女性店主のグッとストーリーです。

岡山県津山市に流れる、鮎が泳ぐ清流・加茂川。その加茂川の清らかな水を使って、毎朝、生地を練り上げ、おいしいパンを焼いているのが「かねとうパン店」の女性店主、兼藤富慈子(かねとう ふじこ)さん・60歳です。

ご主人の意思を引き継ぎ、「かねとうパン店」でパンを焼き続ける店主のストーリー

ご主人から「かねとうパン店」を受け継いだ現店主・兼藤富慈子 さん

「かねとうパン店」は街の小さなパン屋さんですが、富慈子さんは毎朝4時半に起き、1人だけでパンを焼いています。特においしいと好評なのが「食パン」で、それを目当てに開店前から並ぶお客さんもいるほど。
「パンは生き物。その日の気温や天気によって、生地の状態は微妙に変わりますから、それに応じて、使う水の温度や発酵時間を変えないといけないんです」と言う富慈子さん。

「かねとうパン店」は、大正時代の1919年に、富慈子さんのご主人・恭行(やすゆき)さんのおじいさん・おばあさんが始めた菓子店が母体になっています。来年でちょうど創業100周年になりますが、その由緒あるお店をパン屋さん専業に変えたのが、3代目の恭行さんでした。

菓子店の頃は大手パンメーカーから、あらかじめ焼くだけの状態になっている生地を仕入れて焼き、それをお店に並べていましたが、そのうち恭行さんは「どうせなら生地から自分で作ろう」と、パンの作り方を独学で研究。そしてついに、独自の製法にたどり着いたのです。

ご主人の意思を引き継ぎ、「かねとうパン店」でパンを焼き続ける店主のストーリー

「かねとうパン店」に並ぶパン どれもおいしそうだ

恭行さんとはお見合いで結婚。23歳のときに兼藤家へ嫁いできた富慈子さんは、そんな恭行さんの試行錯誤の様子を、ずっとそばで見守ってきました。
「夫が焼くパンは、もちもちして香ばしくて、本当に美味しかったんです」という富慈子さん。「かねとうパン店」のパンは、街の人たちの食卓に欠かせないものになって行きました。

しかし、2005年の1月、突然の試練が富慈子さんを襲います、恭行さんが、冬の凍結した道に足を取られて転倒。頭を強く打ち、脳挫傷で意識不明の重体に……富慈子さんはすぐ病院に駆け付け、1週間付きっきりで看病しましたが、恭行さんは再び目覚めることなく、52歳の若さでこの世を去りました。

「あなた、どうして……」と号泣した冨慈子さん。と同時に、主を失った「かねとうパン店」をどうするか? という問題ものしかかってきました。

途方に暮れた富慈子さんですが、考えた末に、ある決断をします。「このお店、私が受け継ごう!」
実は、恭行さんが元気な頃、富慈子さんはご主人が編み出したパン作りのレシピを聞き出し、紙に書き留めたことがあったのです。そして、余った食パンを冷凍したものが、幸い冷凍庫にいくつか残っていました。

「これを頼りに私の手で、夫が創った味を再現してみよう、と思ったんです」

富慈子さんは、パン作りはまったくの素人でしたが、恭行さんの動きをいつも間近で見ていたので、驚くべき速さでポイントをマスターしていきました。パン職人さんの指導も受け、鍛錬を重ねた結果、1ヵ月半後、富慈子さんは恭行さんが作っていたものとほぼ近い味の食パンを焼くことに成功。
長女の美由紀さんに販売と接客を手伝ってもらい、しばらく閉店していた「かねとうパン店」の営業を再開させました。

ご主人の意思を引き継ぎ、「かねとうパン店」でパンを焼き続ける店主のストーリー

「かねとうパン店」店内の様子

始めたばかりの頃は、材料の配分を間違え、大量のロスを出してしまったこともありましたが、常連さんたちが「だんだん、旦那さんの味に似てきたね!」と言ってくれることが、心の支えになったそうです。

それから13年……富慈子さんが焼くパンは、恭行さんが焼いていたときと遜色ない味になりましたが、生地をこねているときは、隣にいつも恭行さんがいる気がするそうです。

「自分でパンを作るようになって、夫がどういう思いでパンと向き合っていたのかよくわかるようになりました。結婚50周年になる2030年まで、パンを焼き続けたいですね」

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

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