あけの語りびと

目の不自由な方も1人で自由に街を散策できるように─ 「コード化点字ブロック」の普及に挑戦

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3月18日は、「点字ブロックの日」です。昭和42年・1967年のこの日、岡山県で初めての点字ブロックが設置されました。いま、この点字ブロックが、少しずつ進化していて、なんと“しゃべり始めて”います。今回は、この点字ブロックの「進化」に取り組んでいる男性の皆さんのお話です。

高山裕康さん

高山裕康さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「コード化点字ブロック」、この言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。そもそも点字ブロックとは、1枚25個のぼこぼこした突起があるのが「警告ブロック」、細長い棒状の突起が並んでいるのが、「誘導ブロック」といいます。簡単に言えば、ぼこぼこのものは「止まれ」、細長いものは「進め」の意味になります。

「コード化点字ブロック」は、この警告ブロックに、矢印や突起の部分に丸い輪っかの黒いシールを貼って、まるでQRコードのようにしたブロックのことをいいます。このブロックに、スマートフォンをかざしますと、アプリが情報を読み取って、音声にしてくれることから、別名「しゃべる点字ブロック」とも言われているんですね。

コード化点字ブロックが設置されたイメージ

コード化点字ブロックが設置されたイメージ

この「コード化点字ブロック」の開発に取り組んだのは、東京・世田谷区にあります「W&Mシステムズ」という会社です。1957年生まれ、静岡県出身の代表・高山裕康さんと、一つ年下で宮城県出身の代表エンジニア・千葉和也さんが立ち上げました。

高山さんと千葉さんは、北海道大学の硬式テニス部でダブルスのペアを組んでいた仲。卒業後、高山さんは大手コンピューターメーカーの社員として、千葉さんはシステムエンジニアとして活躍されてきました。「コード化点字ブロック」を発案されたのは、エンジニアの千葉さんです。

実は千葉さん、お母様が難病のために、意思の疎通が難しくなってしまいました。そこで、お母様を何とかしたいと、ペンでボードをタッチして指し示すことで、コミュニケーションを取ることが出来る機械を、自ら開発いたします。そんな折、千葉さんは、街で点字ブロックを頼りに、白杖・白い杖をつきながら目的地に辿り着けず、難儀されている目の不自由な方を見かけて、ふと思いました。

『点字ブロックに情報をかき込んで、このペンと同じような白杖は作れないだろうか?』

さっそく千葉さんは、新たな取り組みを始めるんです。

千葉さんは、情報をたくさん書き込んだ点字ブロックと、センサーの付いた白杖を作り上げて、実験を行ってみました。しかし、1日で点字ブロックは埃にまみれて汚れ、情報の読み取りが出来なくなり、白杖のセンサーも、地面にカンカンとぶつかる衝撃に耐えきれずに壊れてしまいます。

実験結果に悔しくて仕方がない千葉さんでしたが、得意な数学の発想が活きます。25の突起が並んだ警告ブロックをジーッと眺めて・・・ひらめきました。

『この5×5の突起の列にマークを付けたら、機械で読み取れるんじゃないか?』

そう、あの突起が並んだ点字ブロックに、簡単な模様をつけることで、まるでQRコードのように使えるのではないかと思いついたんですね。

3月8日に金沢で開催された「コード化点字ブロックサミット」に参加された皆さん 画像提供:W&Mシステムズ

3月8日に金沢で開催された「コード化点字ブロックサミット」に参加された皆さん 画像提供:W&Mシステムズ

ここからは高山さんも参加して、白杖にカメラ、腰に付けられる小さなコンピューターとバッテリー、ワイヤレスイヤホンの4点セットを試作、ケーブルで結んで実験を始めます。

視覚障害者の皆さんにご協力をいただいて、公民館などで「コード化点字ブロック」を体験してもらうと、参加された方から歓喜の声が上がりました。

「オーッ!点字ブロックがしゃべる!これが街なかにあれば、1人で歩けるよ!!」

上々の反応に嬉しくなった2人ですが、使うにはいろいろな機械を結ぶ必要があります。準備があまりに面倒で、出かける時にはとても使えないという声も聞こえてきました。

行き詰まった2人は、高山さんの高校の同級生で、長年、企業で研究を重ね、いまは北陸・金沢工業大学の教授を務める、松井くにお先生に協力を仰ぎます。

「これ、みんなスマホに入れちゃいましょう!」

開口一番、そう切り出した松井先生は、コードに対応したスマートフォンのアプリの開発に尽力してくれたのです。

そうして2019年、金沢市の協力も得て、金沢駅や香林坊、兼六園の周辺などに、「コード化点字ブロック」が初めて設置され、アプリと共に実用化にこぎ着けました。

世田谷区役所 画像提供:W&Mシステムズ

世田谷区役所に設置されているコード化点字ブロック 画像提供:W&Mシステムズ

そして今、東京都内では品川、世田谷、足立の区役所、日本点字図書館などの公共施設、神戸ではポートライナー・医療センター駅に「コード化点字ブロック」が設置されています。

来年、日本で生まれて60年を迎える「点字ブロック」は、2000年代の法整備で、設置された場所が増えましたが、高山さんは現状に危機感をおぼえているといいます。

「なんちゃって点字ブロックが多いですね。とくに金属製のものは、色のコントラストが付かないので、弱視の方にとっては、ほとんど役に立っていないんです」

目の不自由な方も当たり前のように、1人で自由にブラブラできる街を目指して、60代後半の男3人が力を合わせて、「コード化点字ブロック」普及への挑戦は続きます。

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