70年ぶりに、命の恩人である友に会いに行く
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第540回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、12月22日公開の『家(うち)へ帰ろう』を掘り起こします。
世界8カ国の映画祭で、もっとも観客に支持された感動作
ブエノスアイレスに暮らす88歳の仕立て屋アブラハム。彼は自分を高齢者用の施設に入れようとする子どもたちから逃れ、故郷であるポーランドを目指して旅に出ることに。ブエノスアイレスからマドリッド、パリを経由する旅の目的は、70年以上会っていない親友に、自分が最後に仕立てたスーツを届けること。その親友は、ユダヤ人であるアブラハムがホロコーストから逃れた彼を助け、匿ってくれた命の恩人だった。しかし旅の道中、様々な困難に出会い…。
ホロコーストをテーマに、ユーモアを交えながら人生の機微を描いたロードムービー『家(うち)へ帰ろう』。監督2作目にして世界8カ国の映画祭で観客賞を受賞した本作。実は、パブロ・ソラルス監督の家族にまつわる出来事がヒントとなっています。
パブロ・ソラルス監督は、ユダヤ系アルゼンチン人。そして父親方の祖父フアンおじいさんは、ポーランド生まれのユダヤ人でした。しかし“ポーランド”という言葉はフアンおじいさんの前では禁句となっており、おじいさんは自身が体験した出来事を決して話そうとはしませんでした。
やがて、ナチス・ドイツによるポーランドでのユダヤ人への迫害の史実を知ることになった、ソラルス監督。独自の調査や取材をもとに脚本を書き始め、10年間で6、7通りのまったく異なるプロットを書き、ようやく撮影にこぎつけました。
作中で旅の目的地となるポーランドのウッチは、フアンおじいさんが生まれ育った地域。またフアンおじいさんの仕事が洋服の仕立て屋だったということで、主人公アブラハムの職業として採用されています。
年老いた父親が家族の反対を押し切って、ナチスから自分を匿ってくれた友人を探すために祖国へと旅する、というストーリーについては…。実は、ソラルス監督がカフェで偶然耳にした話がヒントとなっています。フアンおじいさんが決して語ることがなかった苦痛や憎しみ、そして哀しみを、その孫が映画として後世に伝えて行く。
世界中の映画祭で、観客の多大な支持を受けた証とも言える“観客賞”を受賞するのも納得の感動作です。
家へ帰ろう
2018年12月22日からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:パブロ・ソラルス
音楽:フェデリコ・フシド
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラズ、ユリア・ベアホルト、マルティン・ピロヤンスキー、ナタリア・ベルベケ ほか
©2016 HERNANDEZ y FERNANDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A.
公式サイト http://uchi-kaero.ayapro.ne.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/