本日1月14日は天才作詞家・森雪之丞の誕生日
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作詞家としてはそのぶっ飛んだ発想で80年代以降の音楽シーンを席巻し、アイドル・ポップスからロック、Jポップ、アニソンまで幅広い作風で現在まで活躍する森雪之丞。本日1月14日は森雪之丞の誕生日。1954年生まれなので65歳となる。
その詞を読んだだけで「あっ、作詞は森雪之丞だな」とわかる歌謡曲ファンは多い。それほどまでに作風は独創的で先鋭的、さらにいえば感覚的な言葉選びが特徴であり、簡単に言ってしまえば「天才」。そこが森雪之丞の凄味である。
その感性の高さは作詞家デビュー作である、ザ・ドリフターズの「ドリフのバイのバイのバイ」で既に現れている。この曲はもともと大正時代に流行したいわゆる「俗謡」で、エロ・グロ・ナンセンスの時代の「ナンセンス」を象徴する楽曲でもあった。時代によってさまざまに歌詞が変えられ、いずれも世相や政治を風刺する替え歌として歌い継がれているが、ドリフターズのバージョンは、通勤ラッシュで毎朝出会う女子高生やスナックのホステスに片想いするサラリーマンの心情をペーソス豊かに歌ったもの。その後の森雪之丞の個性でもある、語呂合わせの面白さと、擬音や二音反復の多用といった特徴が早くもみられる。この時、森は渡辺プロダクションの渡邉晋社長の自宅に呼ばれ、緊張のあまり玄関で失神してしまったという。だが、それが逆に気に入られ、キャンディーズやあいざき進也など渡辺プロ所属歌手への作詞依頼が増えたという。
最初のヒットは、あおい輝彦の77年作「Hi-Hi-Hi」で、オリコン7位まで上昇。森は作詞のみならず作曲まで手掛けており、詞と曲の絶妙なマッチング、カタカナや英語使いの上手さ、ノリのよさと思わず口ずさみたくなる鼻歌感覚は、浜口庫之助の現代版と呼べるかもしれない。さらに衝撃的なタイトルで聴く者を驚かせたのが、やはり作詞作曲を手掛けた同年の榊原郁恵「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」ではなかろうか。数式をタイトルに用いた作品では、ちあきなおみの「X+Y=LOVE」以来であるが、こちらは人名である。なんのこっちゃというタイトルだが、その実、映画俳優の真似してカッコつけるより、自然体のあなたが好き、という可愛いラブソングなのだ。一見、奇妙な発想に思えるが、聴いている者をハッピーな気分にさせる要素が詰まっている。
80年代に入ると、アイドルへの提供曲が増えていくが、その代表的な作品にはデビュー曲「NAI・NAI 16」以降、断続的に提供したシブがき隊の諸作が挙げられる。「100%…SOかもね!」「Zokkon命-Love-」「トラ!トラ!トラ!」など、やはり二音反復の得意技に加え、「そうかもね」を「SOかもね」と表現する感覚は、ダジャレともコピーライトとも異なる、森雪之丞独自のセンス。シブがき隊のやんちゃで三枚目的な味と、ハードロック的なサウンドとの融合には、こういった森雪之丞の「英語のリフ」の感覚に近い言葉遊びが実に有効であった。井上望の「恋はシュラシュシュ」(Joe Lemon名義)や浅香唯の「ヤッパシ…H!」、あるいは研ナオコ「愛、どうじゃ。恋、どうじゃ。」中原めいこ「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」なども同系統と呼べる。
その作風は当然、洋楽的なサウンドと相性がよく、BaBeの「Give Me Up」などのように外国曲に日本語詞を乗せる場合にも有効であった。一方では斉藤由貴「悲しみよこんにちは」や西城秀樹「ジプシー」島田奈美「ガラスの幻想曲」など、ストレートな心情表現でも秀逸な作品を残している。
森雪之丞のこういった作風は、90年代に入りロック系アーティストからも必要とされるようになった。きっかけは89年のサディスティック・ミカ・バンド再結成の際に、高橋幸宏から依頼され、シングル化された「Boys&Girls」をはじめ「賑やかな孤独」「愛と快楽主義者」などを作詞提供したことによる。なかでも布袋寅泰作品には欠かせない作詞家となり、「スリル」「POISON」「バンビーナ」などの傑作を多数発表、さらに2000年代に入ると氷室京介とも組んで「NORTH OF EDEN」「ダイヤモンド・ダスト」など多数の作詞を手掛けている。元BOØWYの2人がそれぞれ森雪之丞に詞を依頼したのも偶然とは思えず、2人それぞれBOØWY時代から続く、リフを重視したタイトなビートを生かすには、森雪之丞の作風が必要であったと考えられる。
もともと作詞家デビュー以前、上智大学英文学科在学中より渋谷のジァンジァンなどで弾き語りを始めており、伝説のプログレ・バンド「四人囃子」のゲスト・シンガーとして活動した経験もあるだけに、シンガー・ソングライター的な発想も初期から持ち合わせており、ロックへの理解にも長けているのだ。
さらに森の重要な仕事には、幾多のアニメ主題歌がある。ざっと挙げただけでも「悪魔くん」「お料理行進曲」(「キテレツ大百科」)、「ハッピーハッピーダンス」(「Gu-Guガンモ」)「キン肉マンGo Fight!」「じゃじゃ馬にさせないで」(「らんま1/2」)「Dokkin◇魔法つかいプリキュア!」をはじめとする「プリキュアシリーズ」の主題歌など枚挙に暇なし。その決定版としてはドラゴンボールZの「CHA-LA HEAD-CHA-LA」がある。この詞など、森雪之丞以外の作詞家が想像できないほど、あの世界観とピッタリな内容で、デビュー以来持ち合わせている「擬音使い」と「二音反復」による「ハッピーな世界観の表現」の典型であり、幼児でもスイスイと口ずさめる軽やかさと楽しさに溢れた森雪之丞ワールドの極致と言えるだろう。ちなみにヴォーカルは影山ヒロノブ。影山が所属していたレイジーのデビュー作「ヘイ!アイ・ラブ・ユー!」が森の作詞であったことも何かの縁か。
現在は、作詞活動のほか、同じアミューズ所属の劇団スーパー・エキセントリック・シアターをはじめとする舞台、ミュージカル音楽の作詞とプロデュースも数多く手掛けている。劇団☆新感線などの人気舞台から、ブロードウェイミュージカルの日本版まで幅広いが、これもまた最初は76年にキャンディーズが主演したミュージカル『スタンバイOK』の作詞から始まったというのだから、森雪之丞は最初から才人だったのである。
ザ・ドリフターズ「ドリフのバイのバイのバイ」あおい輝彦「Hi-Hi-Hi」榊原郁恵「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」サディスティック・ミカ・バンド「Boys&Girls」影山ヒロノブ「CHA-LA HEAD-CHA-LA」(ドラゴンボールZ) ジャケット撮影協力:鈴木啓之
シブがき隊「100%…SOかもね!」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
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【著者】馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。近著に『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(シンコーミュージック)、構成を担当した『ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代』(リットー・ミュージック)がある。