ボクシング・井岡一翔 世界4階級制覇達成で次の伝説へ

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月19日のWBO世界タイトルマッチで、日本人男子初の世界4階級制覇を達成したボクシング・井岡一翔選手のエピソードを取り上げる。

ボクシング・井岡一翔 世界4階級制覇達成で次の伝説へ

【ボクシング BOXトリプル世界戦 WBO世界スーパーフライ級王座決定戦 井岡一翔対対アストン・パリクテ】関係者らとの記念撮影で雄叫びをあげる井岡一翔=2019年6月19日 幕張メッセ 写真提供:産経新聞社

「(ベルトを手に)重たい。これをとることだけ考えて生きてきた」

天才・井岡が、30歳にして再び世界のトップに君臨しました。元世界3階級王者で、WBO世界スーパーフライ級2位・井岡一翔は、6月19日の幕張メッセで行われた王座決定戦で、同級1位のアストン・パリクテ(フィリピン)に、10回TKO勝ち。日本人男子初の世界4階級制覇を達成しました。

井岡はこれで世界戦通算15勝。元WBA世界ライトフライ級王者・具志堅用高を超える日本人単独最多記録となりました。

4階級制覇がいかに難しいか……日本ボクシングコミッションの資料によると、井岡が20人目の達成者ですが、アジアでは4人目で、井岡以外は6階級制覇のマニー・パッキャオ、5階級のノニト・ドネア、前回井岡が戦ったドニー・ニエテスのフィリピン勢だけ。

階級を上げた選手は、よく言われる「階級の壁」を乗り越えないといけません。1階級上げるだけで、相手の体格が急に大きくなったり、下の階級で通じていたパンチが効かなくなることもあるのです。

この試合も、かつて1つ上の階級にいたパリクテと、下から階級を上げて来た井岡の体格差は歴然。パリクテの身長は、井岡より頭1つ分くらい上回っていました。しかし、井岡は30歳初戦となるこの試合に、すべてを懸けていたのです。

2017年の大みそかに、いったん引退を発表した井岡。しかし、翌2018年7月に現役復帰を表明。「海外で活躍する唯一無二の存在になりたい」と、国内のジムに所属せず、米国でライセンスを取得し、9月に現地で復帰戦を行いました。

そして昨年(2018年)の大みそかに、互いに4階級制覇を懸けて、マカオでニエテスとWBO世界スーパーフライ級王座決定戦で対決。当時36歳の老獪なニエテスの前に、1-2の判定で敗れて涙を飲みました。井岡の勝ちとしたジャッジもいましたが、勝負所で攻め込めなかったことが響いたのです。試合後、井岡は会見でこう語りました。

「今できることをやりきったつもり。でも勝てなかったのは、今日が僕の日ではなかったということです。僕の目指した道はそれほど難しいということです。心の中に燃えるものを感じています」

今年(2019年)3月、「Reason大貴」所属として、日本ボクシングコミッションにライセンスの再取得を申請。これが受理され、2年2ヵ月ぶりに日本で試合ができることに。2度目のチャレンジとなった世界戦、序盤、体格で勝るパリクテは、長いリーチを活かし、パワーで攻めて来ました。

「パリクテ選手の攻撃は、ガードしていても脳が揺れました。懐が深く、ジャブも伸びてきたので難しかったです」

その体格差を技術でカバー。序盤はじっくりと距離を測ることに徹した井岡。

「最初は我慢比べでしたが、4ラウンドくらいから距離をつかめるようになりました」

7回には、接近戦から一気に出て来た相手に連打で攻め込まれ、ヒヤリとする場面も。しかし、相手の勢いが落ちて来た終盤になると、自分のペースを取り戻しました。10回、劣勢だったパリクテに攻め込まれますが、井岡はカウンター気味に右ストレートを繰り出すと、これがみごとに決まります。

「相手が勝負をかけたときに、ここで打ち合わなかったらダメだと覚悟を決めました。技術だけではなく気持ちでの戦い。今回は白黒はっきりつけたかったから」

半年前のニエテス戦の教訓が、ここで活きました。パリクテがぐらついたところを、井岡は「ここしかない」と連打で攻め立て、ロープに追いつめたところで、レフェリーが試合を止めました。両腕を突き上げて絶叫した井岡。30歳になって初の試合で、4本目の世界王者ベルトを手にしたのです。

「悔しい去年の大晦日からの続きとして、意味のある4階級制覇になりました。死にものぐるいでつかんだこのベルトを持って、他団体のチャンピオンと戦いたいです」

WBC王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)の名前を挙げて、統一戦を望んだ井岡。さらに、いま同居生活を送っている30代の女性と「近々届けを出します。王者となってからと思っていた」と、再婚する意向も表明。8月下旬には男の子が生まれる予定です。30代になり、パパにもなる井岡が、今後作って行く新たな伝説に注目です。

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