メスなのにオトコ顔~ふてぶてしい保護猫が譲渡先で見せた意外な顔
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【ペットと一緒に vol.159】by 臼井京音
勤務先のふてぶてしい顔の保護猫が気になって仕方がなかった、獣医師の加藤由生子さん。誰からも見向きもされなかったその猫は、いつしか加藤さんをいつも見守る存在へと変わって行きました。
“ふてぶて猫”が“先輩”に
獣医師の加藤由生子さんが院長を務める、ペットサロンBEANS(東京都調布市)には、常連客から“先輩”と呼ばれる看板猫がいます。
もとは加藤さんが勤務医として鍼灸治療を担当している都内の動物病院で、新しい飼い主を探していた保護猫だったそうです。動物病院で当時つけられたマッシュという名前のまま、現在に至ります。
「姉妹と思われるもう1匹のアメリカン・ショートヘアーで、病院暮らしをしていたポテトちゃんは顔がとても愛らしくて、すぐに引き取られて行きました。でも、マッシュは女の子なのに、何だか険しいオトコ顔なんですよ(笑)。おまけに、愛想もない」。
というわけで、すでに推定3歳の成猫のこともあってか、なかなか譲渡希望者が現れなかったようです。
加藤さんが週に2回、出勤するたびにマッシュちゃんはペットホテル室の定位置にいたそうです。
「ギロリと睨むような目つきで、『おはよう』と言っているかのようで(笑)。マッシュの存在が気になって仕方なくなった私は、ある日とうとう『ここよりも静かな環境ですし、BEANSで預かりながら私が里親探しを引き継ぎますね』と言っていました」。
実は社交的だったマッシュちゃん
加藤さんの経営するBEANSは、日中はスタッフルームでフリーで過ごせるタイプのペットホテル。
「マッシュは到着初日から、滞在中のワンちゃんたちにガンガン顔を近づけて行く積極的なタイプでした。他の犬の鳴き声などがうるさかったりして落ち着かないだろうと、わざわざ勤務先から引き取ったのに、実は犬は怖くなかったし、むしろ犬と触れ合いたかったみたいですね(笑)」。
マッシュちゃんは、シャーっと威嚇することもなく、とても穏やかに上手に犬たちとコミュニケーションを取ることができたそうです。
「これならば安心と、半ば拍子抜けしながら、マッシュにはペットサロンに常駐してもらうことにしました」と、加藤さんは語ります。
BEANSに移ってからも新しい飼い主さんとの縁がなかった、マッシュちゃん。加藤さんは、いつしか自分の愛猫にする決意を固めて行きました。
「自宅にはすでに2匹の猫がいます。1度、対面をさせたら、お互い『シャーッ、シャー』と喧嘩腰であまり相性が良くなかったみたい。なので、ペットサロンの看板猫として、私のパートナーになってもらうことにしました」。
加藤さんがマッシュちゃんを迎えてから、ホームページで見つけて遠方からわざわざ鍼灸治療に訪れてくれるペットが増えたり、近所の方がマッシュちゃんの顔を見に来つつ差し入れを持って来てくれたりと、加藤さんのもとに犬や猫や飼い主さんが集まるようになって来たと言います。
「そもそも顔がふてぶてしいし、誰の足元にもスリスリしないマイペースなタイプですから(笑)。マッシュは人気者ってほどでもない地味な看板猫なんですけど、少しは招き猫になってくれているんですかね?」と、加藤さんは微笑みます。
ペットへの東洋医学の良さを知ってもらいたい
マッシュちゃんは、スタッフルームで自由気ままに過ごし、ドッグベッドで我が物顔で寝ていることもしばしばだとか。
「一時預かりやホテル滞在のワンちゃんが、『あのぉ~、そのベッド気持ちよさそうですね』と、何だか控え目な表情でマッシュの姿を見つめているときもあります。まさに、“先輩”の貫禄です」。
そう言いながら笑う加藤さんには、これまで鍼灸治療を行っていて、とても印象に残っている15歳のラブラドール・レトリーバーがいたそうです。週に1回の頻度で1年間、加藤さんはその犬のケアを行いました。
「中医学(東洋医学)は、身体全体のバランスを整えるのを目的として行います。15歳のラブラドールさんは、術後であったことと老齢になったことが重なって寝たきりになっていました。でも、鍼灸治療を行うと、調子が良くなるのが見ていてわかりましたね」。
鍼灸治療の他、食事管理の方法から褥そう(床ずれ)の予防方法にいたるまで、様々なことを加藤さんは獣医師として飼い主さんに伝えたそうです。
「仕事をリタイアされたご夫婦の愛犬で、おふたりは夜中でも起きて頻繁に愛犬に寝返りを打たせていましたね。褥そうを発見したのは、1年間でたった1度きり。しかもごく軽度ですぐ治りました。そこまでの手厚いケアに、『介護のプロは、私ではなく飼い主さんたちです!』と、本当に頭が下がる思いでした」。
加藤さんはこれからも自身のペットサロンで、あるいは都心のクリニックで、飼い主さんからの「うちの子が元気になってうれしい」という言葉を励みに、より多くの犬や猫に鍼灸治療などを施して行きたいと、マッシュちゃんを撫でながら語ります。
連載情報
ペットと一緒に
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。