【ペットと一緒に vol.157】by 臼井京音
岡山県倉敷市に暮らす画家の氏峯麻里さんは、7年前にインコを飼い始めました。それから、楽しいハプニングが起こったり、自宅が浸水したときはボートで一緒に避難をしたり……。今回は、氏峯さんとインコの空ちゃんとの7年のヒストリーを紹介します。
愛鳥とボートで避難すると……
2018年7月初旬の西日本豪雨災害で、被災したチワワの兄弟を描いた絵本『ブラザーズドッグ』の絵を描いた氏峯麻里さんは、発災時に愛鳥のインコ空ちゃんと一緒にボートで避難したと言います。
「自宅の2階が人間の腰の位置まで浸水して来てしまい、空ちゃんをハムスター用のケージに入れて、物置部屋になっている3階に家族4人で上がりました。3階まで水が来たらどうしようとハラハラしながら夜を明かし、翌朝11時頃、避難のボートが来たので空ちゃんと一緒に乗り込みました。3階には通気口のような、人ひとりがやっと通れるような窓しかなく、何とか脱出した感じです。自衛隊の方が、空ちゃんのケージが水平を保てるようにとても注意しながら持ってくださいました」と、氏峯さんは振り返ります。
避難する途中、ちょうど線路付近に水位が達していたため、いったんボートを降りて徒歩で線路を超えることになったとか。
「そこで、信じられない光景を目にしました。飼い主さんがわからない犬が1頭、必死で泳いでいたんです。救助されたのですが、もう水中ではないのに、目をつぶったまま泳ぐように四肢を動かし続けていて……。一晩中、泳ぎ続けたのでしょうね。ワンちゃんにとっても壮絶な体験だったに違いありません」(氏峯さん)。
オスなのに卵を産む!?
祖母宅へ避難したのち、氏峯さんは7月下旬にみなし住宅へと移りました。「もちろん、空ちゃんも一緒に。ところが、空ちゃんは発災後から体調を壊していたんです。『ピーッ』という高音の美声が、低いかすれ声のようにもなってしまって」と語る、氏峯さん。
鳥専門の獣医師に診せたところ、やはり環境の変化によるストレスが原因と考えられる体調不良と、甲状腺に腫れがあることがわかったとか。治療を行い、西日本豪雨災害から1年となる現在は、空ちゃんも元気に過ごしていると言います。
2012年5月、氏峯さんは空ちゃんをオスだと聞いて飼い始めたそうです。
「ところが、ある日『空ちゃ~ん』と声をかけてのぞくと、お腹の下に2つの卵を抱えてあたためていたんですよ。『うわぁぁぁ~』と声を挙げたのは言うまでもありません(笑)」。
当然のことながら無精卵のため、いくらあたためても卵が孵化することはありません。「それから、3日置きに合計7個の卵を産みました。いやぁ~、本当にあのときはびっくりしましたね」と、氏峯さんは笑います。
インコ愛があふれる日々
氏峯さんは、空ちゃんを連れてしばしば散歩に出かけると言います。
「自宅ではよく放し飼いにしていますが、外の世界も見たいだろうなぁと思って。さすがに大空に放すことはしないんですけど、お散歩をしています。空ちゃんが喜ぶことを、たくさんしてあげたいです」。
空ちゃんのチャームポイントは、頭頂の鶏冠のような“くせ毛”だとか。
「ペットショップにいる頃に同じケージで一緒にいたインコに、頭上をキックされていたみたいなんです。遊びなのかな? そのときに“くせ毛”のような状態になってしまったそうで、いまもそのまま(笑)。だけど、それもかわいくて仕方がないですね」と、氏峯さんは目を細めます。
インコは人の言葉をマネすることができます。空ちゃんがどんなことを話すか聞いたところ、「『いってらっしゃい、いってらっしゃい。いい子にしてるんでちゅよ』と、すごく早口で語りかけてくれます」とのこと。
空ちゃんのおかげで、氏峯さんは画家としての制作活動も助けられているとも語ります。家族の一員である空ちゃんは、これからも氏峯さんの心と思い出を豊かに彩る存在であり続けることでしょう。
連載情報
ペットと一緒に
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。