猫が苦手なのに子猫ミルクボランティアに ~子猫は天使だった!~
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【ペットと一緒に vol.152】by 臼井京音
もともと猫が怖かったという、袴もなさん。ところが令和元年に、何か新しいことに挑戦しようとスタートしたのが、子猫のミルクボランティアでした。今回は、もなさんの初めての子猫育ての奮闘記をお届けします。
保護犬とは暮らしていたけれど
袴もなさんは、無類の犬好きだった父親の影響で、幼少期からずっと犬と暮らして来ました。結婚してからも、父親の「世の中には幸せになることを待っている捨て犬がたくさんいる。そのような犬を迎えなさい」という言葉どおり、現在も2頭の保護犬と暮らしているそうです。
保護犬のためにもっと自分にできることがあればと思い、もなさんは保護動物の一時預かりボランティアである“フォスター”について学べる“フォスターアカデミー”の犬コースの講座に参加。その後、猫のフォスターをしている方々との縁もつながり「猫にも目を向けてみようかな」と思い立ち、2019年4月からスタートした同団体の猫コース講座にも参加したそうです。
もなさんは以前、知人宅の成猫に咬まれて流血をした経験があるとか。「これまで猫と暮らしたことがなかったので、友人宅の猫ちゃんに、いつも愛犬に触るような感覚で手を出して触ろうとしたんです。そうしたら、びっくりさせてしまったみたいで、ガブっと咬んで来て……。私が悪いんですけどね。かなり流血して、猫に対する苦手意識がついてしまいました」。
ところが、猫コースの講座最終日に「私、絶対に子猫のミルクボランティアを手伝います!」と名乗りをあげていたと言います。
乳飲みの子猫を目の前に心が動く
もなさんの心境の変化は、講師のひとりであった墨田由梨さんが講座に同伴した、数匹の離乳前の子猫を目にしたことで起こりました。
「墨田さんが、授乳や排泄介助の方法などを実践して見せてくれたのですが、はかない命が必死で生きようとしている姿を目の当たりにして、心に衝撃が走ったんです。小さな1匹1匹の命だけど、何かしらの意味があって、このコたちはこの世に誕生したんだ! と」。
実はもなさん、それまで保護猫に関してはそれほど興味がなかったとも言います。
「近所に野良猫がいても、保護団体や地元のボランティアが自治体の助成金などを使って避妊去勢をさせて、その後はリリースし地域猫として餌をもらったりして何とか生活をしています。猫の場合、避妊去勢手術の徹底がとても追いつかず、たくさんの子猫が次々と生まれてしまい、まるでイタチごっごのよう。私ひとりの力が加わったからといって、現状はきっとあまり変わって行かないのでは……」と、思っていたとのこと。
これまでのそうした価値観が180度変化するほどに、生後間もない子猫の姿が印象的だったのです。
生後2週間の子猫がやって来た!
こうして5月1日、袴家に生後2週間位の2匹の子猫がやって来ました。「全部で5匹の兄弟姉妹だったんですが、ミルクボランティア初体験ですし、まずは元気そうな2匹を自宅に引き取って面倒を見ることにしたんです」。
名前は漫画の“サザエさん”から採って、イクラくんとタラちゃんに決めたそうです。
「ちっちゃいね~! と、主人とそーっと抱っこしました。命の重みを感じながら」と当時を振り返る、もなさん。目覚まし時計をセットし、夜中でも3時間置きに起きては眠い目をこすりながら授乳を続けました。
「ミルクは人肌くらいの温度に冷ましてから哺乳瓶で与えます。終わったら、哺乳瓶を消毒して寝床を掃除して、仮眠して、また数時間後に起きて……。それだけでも大変でしたが、子猫たちはしょっちゅう下痢をするんです。近所の病院にも、何度も通いましたね」。
もなさんの、猫好きでもある夫は排泄の手伝いをしてくれたそうです。
「猫コースを受講するまでは、乳飲み猫たちは自力で排泄すらできないなんて知りませんでした。母猫に舐めて刺激されると、ようやく促されて排泄できるんですよね。動物たちの子育てって大変だとも実感しました」(もなさん)。
ドキドキの新しい家族探し
もなさんが想像以上に大変だったと語る、イクラくんとタラちゃんの育児ですが、2匹が生後1ヵ月に入ってからはぐっと楽になったそうです。
「驚くほどに、急に力強くなりました。ペースト状の離乳食を用意すると、2匹がお皿に顔を突っ込んでムシャムシャと食べる姿を見て、ほっとしました」(もなさん)。
「それぞれの性格の個性もはっきりとして来た2匹を見ていると、このままでは情が移って別れがつらくなる」と思い、もなさんは新しい家族を募集することに。SNSを活用したり、里親募集サイトに投稿したりしたところ、10件以上の応募があったとか。そのなかからお見合いをして、早期の避妊去勢手術を行う約束を快諾してくれた夫婦に譲ることが決まったそうです。
「七夕の日が、イクラとタラの新たな門出です。さびしくて泣いちゃうかな?」と、もなさんはうれしい反面、少し複雑な心境のようです。
50代に入るまで出版社などに勤めたり、フリーライターとして多忙な日々を過ごして来たもなさんは、まさか自分が子猫のミルクボランティアになるとは想像もしていなかったとか。
「そのままでは決して生きて行けない小さな命が、ミルクボランティアの手で立派に育ち、譲渡先の家族の心を明るく元気にできる存在になってくれる。それって、本当にすばらしいことだと思いました。夫婦ふたり暮らしの我が家は2世帯住宅ですが、私の高齢の母も、子猫たちを見たくてしょっちゅう訪ねてくれて。そして、『かわいいわ~』と笑顔になっていました。不幸な猫を減らしつつ、みんなを幸せにする猫を、もっと育てて行きたいです」。
そう語るもなさんは、夏は仕事に専念したのち、秋にはまた仕事量をぐっと減らして2回目のミルクボランティアに挑戦するそうです。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。