【ペットと一緒に vol.154】by 臼井京音
今回は、落ち込んでしまった筆者を癒してくれたセラピードッグのエピソードと、それにまつわる最新の学術研究の結果をお届けします。そのセラピードッグとは、実は筆者のいちばん身近にいる愛犬たちでした。
落ち込んだとき、愛犬のオモシロ行動に救われた
数週間前、筆者はショックな出来事で気持ちが落ち込んでいました。そんなとき、最大の助けになったのは愛犬たちの存在であると、あらためて気づかされています。
筆者は、しばらくボーっとしてしまう日々が続きました。原稿を書こうとノートPCを開いても、ショックの原因となったことばかりを考えてしまい、まったく仕事が進みません。「締切があるのに、どうしよう」と焦れば焦るほど、頭のなかは混線状態に。
そんなとき、ふと足元を見ると、愛犬が“へそ天”しつつ、四肢バラバラの奇妙な恰好で寝ているではありませんか! 思わず、くすっと笑わずにはいられませんでした。
笑いは心身を健康に導いてくれると言われています。予期せぬ行動でいつも筆者を笑わせてくれる愛犬に、どれほど救われていることでしょう。
飼い主と同じ体調不良が愛犬にも
筆者はこれまでも落ち込んだときに、愛犬の散歩へ出かけることで気分転換ができた経験が何度もあります。ところが、今回はちょうど梅雨入りして雨が増えたため、散歩に行けなかったり、行っても高温や多湿を気にしてすぐ帰る日が続きました。天気が悪い状況も影響したのか、筆者の心は落ち込んだまま、次第に胃腸まで不調に陥ってしまいました。
すると、ほどなくして10歳の愛犬ミィミィまで便がゆるくなったのです。14歳のリンリンは、胃内異物があるためか一時期ゆるい便をしていましたが、数週間は正常に戻り元気にしていました。そのリンリンまで、また軟便に。
「ちょっと~。めったに便がゆるくならないのに、愛犬の便がゆるいんだけど……」と、獣医師の友人に筆者はメッセージを送りました。すると、予想外な答えが返って来たのです。「飼い主の症状が、うつったんじゃない?」と。
「えー! 何それ?」と返信しつつ、筆者には思い当たる節がありました。10年以上前、筆者が気管支炎になっていたとき、愛犬のリンリンにも咳が続き動物病院へ行くも、「原因不明」と診断されたのです。
獣医師の友人曰はく「これはもう科学では証明できない次元の話だと思うんだけど、飼い主さんと同じ場所に腫瘍ができるワンちゃんとか、同じ病気になるペットがうちの病院にもたくさん来るの。だからさ、京音さんが元気になったら犬たちも良くなると思うよ」と。
意外な返答に驚きながらも、半ば腑に落ちた筆者は、「そうだ。リンリンとミィミィのためにも元気になろう」と何度も頷きました。
言葉は不要で人の気持ちを理解できる、犬
獣医師の友人の助言もあり少し落ち着きを取り戻した筆者は、2019年6月6日付け学術誌『サイエンティフィック・リポート』で発表された研究結果を紹介した記事にたまたま触れ、「やっぱりね!」と、感嘆の声を上げずにはいられませんでした。そこには、「飼い主が長期間にわたってストレスや不安を感じていると、飼い犬にもそれがうつっている可能性がある」と書かれていたのです。
論文の筆者でスウェーデンのリンショーピング大学の動物学者であるリナ・ロス氏は、「人間が犬を理解するよりも、犬のほうが人間のことをよく理解している」と話しているそうです。
ロス氏はストレスホルモンであるコルチゾールの濃度を測ったところ、飼い主の毛髪のコルチゾール値が高い場合、飼い犬も同様に高かったとか。犬たちは飼い主の発するにおいや雰囲気などで、その不安感を敏感に感じ取っているのでしょう。
愛犬たちに感謝!
筆者が不安や恐怖心を抱えていたこの数週間、とくにミィミィの行動に顕著な変化が見られました。最大の変化は、目覚まし時計が鳴るかいつもの起床時間になるまでは、どんなに呼んでも筆者の足元でしか寝ないミィミィが、筆者の気持ちが落ち込んだ日から枕元で寝ていたことです。リンリンも、いつもよりも筆者の脚や腕などをペロペロと舐めてくれることが多かった気がします。
犬や猫を撫でると血圧が下がるという研究結果は、以前から知られています。なかなか寝付けない筆者でしたが、ミィミィを撫でているうちに自然と気持ちが安らいでいました。ミィミィは、きっと筆者の感情をくみ取ってくれ、なぐさめようと行動してくれていたに違いありません。
獣医師の友人が言うように、筆者が少しずつ元気になるにつれて、リンリンとミィミィの軟便も治って行きました。
アニマルセラピーの取材をとおして、セラピードッグの癒しの力のすごさを目の当たりにして来た筆者でしたが、今回は、こんなにも身近に筆者の気持ちに寄り添ってくれるセラピードッグがいたことを再発見させられました。と同時に、本当に愛犬たちが愛おしく感じてヨシヨシと撫で続けずにはいられませんでした。
ありがとう! ミィミィ、リンリン。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。