4歳で逝った愛猫が、ペットロスにも陥ったトリマーに残したギフト

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【ペットと一緒に vol.153】by 臼井京音

4歳で逝った愛猫が、ペットロスにも陥ったトリマーに残したギフト
生まれてからずっと、犬や猫と暮らして来たと言う、トリマーの末光絢香さん。2年前、愛猫を失いペットロスになったことで、仕事にも大きな変化が訪れたと言います。今回は、末光さんと愛猫のストーリーを紹介します。

 

避妊手術に連れて行った愛猫が妊娠していた!

トリマー歴5年の末光絢香さんは、大の動物好き。「私が生まれたときにはシベリアン・ハスキーを飼っていました。ずっと我が家には犬や猫がいて、動物に囲まれて大きくなったんですよ」と、末光さんは微笑みます。

もっとも印象に残る思い出は、愛猫のややちゃんの出産だったと言います。

「私が中学生だった約10年前は、飼い猫も屋内外を自由に出入りしている時代でした。なので、生後半年を過ぎたややに避妊手術を受けさせようと動物病院へ。すると『手術できませんね。妊娠していますよ』と言われ、本当にびっくりしましたね」。

ある日、末光さんが塾に出かける前、布団の奥に隠れているややちゃんを見つけて触れ合おうとしたら、子猫が生まれているのに気づいたそうです。

「4匹の子猫がややのおっぱいを吸っていました。『おかあさ~ん、生まれてるー!』と、慌てふためく私と母をよそに、ややは『何か?』と言わんばかりの平然とした表情で、しっかり母猫の役割を果たしていましたね」と、末光さんは笑います。

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ややちゃんが産んだ、きんくんとぎんくん

1歳にも満たないややちゃんでしたが、その母猫ぶりは立派だったとか。子猫たちが離乳食を食べ終わるのを見届けてから、ややちゃんは食事を始めていたそうです。末光さんの同級生が子猫を見に来て抱っこをすると、シャーっと声をあげながら猫パンチで友人を襲撃したことも。

「子猫を取られてしまうと焦ったんでしょう。ふだんはおとなしいのに、ややの母性を目の当たりにして、すごいなぁと純粋に感動したのを思い出します」(末光さん)。

離乳が終わると4匹の子猫のうち2匹は、父親の友人宅へ。残った2匹は、末光家に残すことになりました。

「祖母が近所で拾って来た、くまという猫などもいたので、我が家には最大で7匹の猫がいたことになりますね。みんな、仲良しでした」。

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末光家の愛猫たち(くまくん、ぎんくん、むぎくん)

久しぶりに迎えた若猫への余命宣告

末光さんが高校3年生の頃、父親が子猫をもらって来たそうです。アメリカン・ショートヘアーとスコティッシュ・フォールドのミックスで、洋猫の趣がたっぷりの外観でしたが、名前は、むぎ。

「麦焼酎のボトルの横にちょこんと座っている姿を発見して、『ボトルに似合ってる!』と感じたという父が、“むぎ(=麦)”と名付けました」とのこと。

末光さんがむぎくんと一緒に寝ていると、首や耳たぶをチュパチュパと口で吸われたこともあったそうです。

「離乳したばかりだったので、母猫のおっぱいを吸う仕草で甘えてくれたのかな? 小さくて尖った爪が痛かったけど、それよりもかわいいと感じる気持ちのほうが大きかったですね」。

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垂れ耳が、むぎくんのチャームポイントのひとつ

ほとんど寝てばかりの老猫たちに、むぎくんはじゃれついたり盛んに遊びに誘っていたりもしたとか。

「くまもぎんも、いやな顔をしないで相手をしてあげていました。子猫特有の元気で明るい姿を眺めながら、家族も笑顔の毎日でしたね」と、末光さんは当時を振り返ります。

ところが、むぎくんが4歳になった5月半ばのある日、勤務する動物病院に元気がなくなったむぎくんを連れて行ったところ、思わぬことを告げられたと言います。「腎臓の状態がとても悪い。今月末まで命が持つかわからない」と。

「何で? まだ4歳なのに? と、受け入れられなくて呆然と立ち尽くしていました」(末光さん)。

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愛犬ともご覧のとおり、むぎくんは仲良し

むぎくんが残してくれたもの

むぎくんは、さっそく入院して点滴治療を始めました。すると、悪かった腎臓の数値が少しずつ改善して行ったそうです。

「ところが、お見舞いに来た母が、病院で過ごしているむぎを見て『かわいそう』と泣き出し……。私としては、もっと数値が良くなるまで入院させたかったのですが、両親の希望どおりに退院させることにしたんです」。

末光さんは動物病院勤務のトリマーなので、診察時のペットの保定などを手伝うこともありました。

「なので『我が家の猫のことなので私が責任を取ります。だから、愛猫の点滴の針を自宅で私に打たせる方法を教えてください』と院長にお願いし、むぎの点滴治療を私が続けていました」。

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自分のアピールが強いむぎくんらしさが出ているという1枚

こうして何とか命をつないだむぎくんでしたが、6月4日に旅立ってしまったそうです。

「ここまでがんばってくれて、えらいね、むぎ。そう語りかけながらも、自分にもっと知識があったら、早期に病気を発見してあげられたかもしれない。早くから治療を開始できて、もっと長生きさせてあげられたかもしれないと、自分を責めていました」と、末光さんは語ります。

むぎくんを4歳という若さで失い、末光さんは初めてのペットロスも経験しました。

「勤務先で患者さんの猫を見るのも、トリミングのお客様の犬を見るのもつらくなってしまって……。本気で、もうこの仕事を続けるのは無理だと思いました。心身に不調をきたし、仕事を休んだ時期もあります。でも、これで仕事を辞めた私のことを、天国にいるむぎはどう感じるだろう? きっと、悲しい気持ちになるだろうな。そう思い、何とか頑張ることにしたんです」。

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いまは天国から末光さんを見守っている、むぎくん

取材をした2019年6月で、むぎくんの旅立ちから2年。

「正直、まだ完全にペットロスから立ち直れていない部分もあります。でも最近、自分の変化に気づきました。それは、『私も余命2週間と言われた経験があるんです。つらいですよね』と、愛犬や愛猫の余命宣告をされた患者さんに心から共感できるようになったことです。患者さんにとって私の共感が、ほんの少しかもしれないけれど癒しになっている気がします。これって、むぎからのギフトなのかもしれない。そう思わずにはいられません」。

そう語る末光さんが、ときには患者さんの気持ちに寄り添って励ましている様子を、きっときょうもむぎくんは天国から見守っていることでしょう。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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