ニッポン放送からいちばん近い映画館、有楽町スバル座の歴史と魅力
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第693回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、10月に閉館する有楽町スバル座に八雲ふみねが潜入。その魅力と思い出を掘り起こします。
有楽町の映画文化を担って来た老舗の映画館
ニッポン放送からいちばん近い映画館、有楽町スバル座。1946年、新作の洋画を先行上映する日本初の洋画ロードーショー劇場「丸の内スバル座」としてオープン。戦時中は輸入が禁止されていた外国映画が上映され、多くの観客で賑わいました。
日本で初めて“ロードショウ”という言葉を使用したのは、実は有楽町スバル座だとも言われています。1953年に火災で焼失するものの、1966年、有楽町ビルの竣工とともに「有楽町スバル座」に名を変えて復活。
以来、有楽町の映画文化を支えるシンボリックな存在であり続け、映画ファンの間でおなじみの歴史ある映画館として支持され続けましたが、2019年10月で閉館を迎えます。
有楽町スバル座の特徴は、全席自由席のロードーショー館だということ。劇場窓口でチケットを購入し、入れ替え制ではないので、映画の途中から入場することもできれば、上映中に座席を移動することもできる。
気に入った作品なら、1日中入り浸って何度も観ることが可能。昔ながらの懐かしい情緒にあふれていて、私も大好きな映画館のひとつです。
初日舞台挨拶やトークイベントで司会を務めさせて頂く度に、有楽町スバル座には特別な雰囲気があると、常々感じていました。それは、登壇する俳優さんや監督を目当てに駆けつけた上映作品のファンだけではなく、有楽町スバル座という映画館ファンのお客様が必ず客席にいらっしゃるということ。
映画館を愛し通い続けていらっしゃる“諸先輩方”のお姿を、1段高いところから拝見するたびに、歴史と伝統、そしてお客様の劇場への愛情がひしひしと感じられたものです。
そんな有楽町スバル座の最後のロードーショー作品となるのが、『みとりし』。一般社団法人日本看取り士会の代表理事・柴田久美子の経験を原案に、看取り士という仕事を人生のセカンドライフに選んだ男性の日々を描いた人間ドラマです。
“看取り士”とは、最期の旅立ち、家族とともに、そしてもしかしたら1人で逝くとき、住み慣れた家、希望する場所で残された時間を過ごすため、心を寄せ手助けしてくれる人のこと。
誰にでも訪れる、最期の瞬間。温かい死を迎えるために周囲の人々をサポートし、見届ける看取り士の姿を通じて、“生きる希望”について考えさせてくれる1作です。
支配人に就任以来、シネコンでは上映しないような小さな映画も積極的に取り上げて来た足立善之支配人は、「映画館に足を運んでくれるお客さんが喜びそうな、しっとりと温かみのある邦画で締めくくりたい」という思いから、本作を“最後の番組”に選んだとか。
閉館は、施設の老朽化や今後の映画興行事業の展望など、総合的に判断して決めたとのこと。そうした事情は否めないと理解しながらも、全国にシネコンが広がり単館系の劇場が減少して行くなか、こうした温もりのある映画館がまたひとつ消えてしまうのは、寂しい限り。
足立支配人の言葉どおり、有楽町スバル座の幕引きと映画『みとりし』で描かれている、命のバトンを受け渡す人生の幕引きとを重ねずにはいられません。
本作の封切り翌日に行われた公開記念舞台挨拶には、主演の榎木孝明さんをはじめ、村上穂乃佳さん、高崎翔太さん、櫻井淳子さん、白羽弥仁監督、原案の柴田久美子さんが登壇。私は司会を務めましたが、ゆかりある有楽町スバル座最後のロードショー作品での大任を仰せつかり、とても光栄でした。
さて、有楽町スバル座では10月5日~10月20日まで「スバル座の輝き ~メモリアル上映~」を開催。『イージー・ライダー』や『クレイマー、クレイマー』『太陽がいっぱい』といった往年の名画から、『七人の侍』『乱』『シコふんじゃった』など懐かしの邦画まで、有楽町スバル座の歴史を彩った作品が上映されます。
足立支配人自らがセレクトした珠玉のラインナップに、心躍る映画ファンも多いはず。芸術の秋。歴史ある映画館の真っ赤なシートに身をうずめ、じっくりと名作映画と向き合ってみてはいかが。
<作品情報>
『みとりし』
有楽町スバル座ほかにて全国順次公開中
監督・脚本:白羽弥仁
原案・企画:柴田久美子「私は、看取り士。」(佼成出版社刊)
企画・製作:榎木孝明、島田豪
出演:榎木孝明、村上穂乃佳、高崎翔太、斉藤暁、つみきみほ、宇梶剛士、櫻井淳子 ほか
(C)2019「みとりし」製作委員会
公式サイト http://is-field.com/mitori-movie/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/