英語民間試験、導入延期~入試改革より教育体制改革が必要
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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(10月30日放送)に作家・ジャーナリストの河合雅司が出演。入試制度と大学の経営難について解説した。
(※編集部注:萩生田光一文部科学相は11月1日、閣議後の記者会見で、2020年度から「大学入学共通テスト」で活用される予定だった英語の民間検定試験について、令和6年度めどに実施を延期すると発表)
入試制度を頻繁に変える教育行政
萩生田文部科学大臣が、BSフジの番組で「裕福な家庭の子が回数を受けて、ウォーミングアップをできるみたいなことはあるかもしれないが、自分の身の丈に合わせて勝負してもらえれば」と発言した問題。その後、謝罪し発言も撤回したが、30日午前の衆議院文部科学委員会で改めて「不安や誤解を与えることになってしまったと考えており、改めておわびを申し上げます」と謝罪した。
森田耕次解説委員)いまの高校2年生から導入される現在の「大学入試センター試験」に代わる「大学入学共通テスト」、その英語で導入される民間検定試験は6つの団体7種類から選んで最大2回受験するのですが、1回の受験に2万円以上かかる試験がありまして、会場が都市部に限られる試験も多いということで格差を懸念し、全国高等学校長協会は導入の延期を求めておりました。これについて萩生田文部科学大臣が「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と発言したことについて、30日の衆議院文部科学委員会で謝罪しました。自民党の二階幹事長、公明党の斉藤幹事長も会談しまして、この民間検定試験については受験生の不安を解消するよう政府に申し入れるということで一致しております。この民間のテストですが、英検やケンブリッジ英語検定など7種類から選ぶのですが、安くて5800円、高ければ2万5850円。これを高校3年のときまでに受けて、2回までの成績が大学入試に反映するということです。この問題についてはメールもいただいておりまして、“かずいちばん”さん「萩生田さんの身の丈発言、私には何が悪いのかわかりません。育つ環境や生活レベルはみんなが違うのだから、仕方ないと思うのですが」といただきました。河合さんはどう思いますか。
河合)教育機会の公平性を軽視しているということにおいては、軽率な発言だったと思います。ただ、最近の文科行政を見ていると、実にコロコロと入試制度をいじっているイメージが強くて、この英語の試験もそうですが親御さんも受験生もどういう準備をしたらいいのか迷っている方が多いですよね。
森田)我々もそうです。私と増山さん(※番組アシスタント 増山さやかアナウンサー)は受験生を抱えていますからね。
大学の入学定員を厳密化~地方創生が目的で
森田)それから一方で、大学の入学定員を厳密にするという動きがあります。大田区の“いそじい”さん「野党だけならまだしも与党からまでチクチク言われて、それでも文科大臣がちっとも申し訳なさそうに見えないのは、反省もなく謝罪した形だけ取ったからなのでしょうか。実際に島しょ部や遠隔地の受験生は2万5000円の受験料に交通費と、場合によっては宿代で軽く4~5万。これを2回で10万で、さらに大学受験料と交通費と宿代でどれだけかかるのか。また、都内も定員を制限されるので都内の受験生が地方に遠征して受験となれば、同じようにお金がかかるというのに、文科大臣自ら「身の丈に合わせて」などと言われたら、親の立場はないですよね」というメールもいただいています。文科省は2016年から入学定員をオーバーした私立大学への補助金の配分基準を厳しくしているのですね。ですから、入学定員をオーバーしない、合格者をたくさん出さないという風に私大はなっていて、どんどん偏差値が上がってきたり、安全な方しか受けないようになっているのですね。
河合)(とりわけ入学定員を厳格化したのは)都内の23区にある大学なのですけれどね。
森田)一方で、大学の経営も相当厳しいということを河合さんは指摘されていますよね。
河合)受験のあり方の見直しを頻繁にやっているわけですが、底流にあることが何かを考えると、子どもの数が減って入学する人たちも減ってきて、ここから先この国がどういう人材を育てていかなければいけないのかという模索が表れているのだと思います。それがいまの迷走ぶりであり、ものすごくいろいろなことを変えようとしてきているのだと思います。
森田)都内の23区の定員を絞ろうというのも、地方の大学の生き残りのためというところもあるわけですか。
河合)これはどちらかというと地方創生の政策の一貫として出てきた筋の悪い政策だと私は思っていました。東京に集まる理由というのが1つは進学で1つは就職なので、進学段階で定数を絞ってしまえば地方から東京圏に若い人が流れるのが少しでも減るという発想だったのです。
若年層の人口減少で大学受験者自体が減少傾向に
森田)ただ、そもそも大学に進学する子どもたちが減ってきていると。
河合)この東京の話とは別の話として、とりわけ過疎が進み始めている地方を中心に18歳人口がこれからも減ってくるわけですね。すでにここから15年くらいで20万人くらい18歳人口が減ることが見込まれているのです。
森田)15年で20万人18歳人口が減る。
河合)(18歳人口は)すでに生まれている子どもの18年後ということで、何年後にどれくらいの人数になるのかは大体わかるのです。いまの進学率は半分くらいなので、仮に受験する人が10万人減ると、1000人規模の大学がこれから100校くらい経営が成り立たなくなります。すでに定員割れしている学校は多くて、私立の3割くらいが定員割れして、地方の私立大学は経営が厳しい状況です。そういうのもあって、(東京)都心部の大学への定員の厳格化をやっている部分もあるのです。
森田)2000年以降を見ると、経営破綻を理由として廃止や民事再生法を申請した四年制の私立大学が14校あるのですね。
河合)地方の私学を中心に、子どもの数を考えれば、(経営破綻する大学は)これからもっと増えるでしょう。
森田)大学倒産時代に入ってくるわけですね。そうすると、大学はどういう人材を採ったらいいのか考えなくてはいけませんね。
河合)(少子化で受験生が減るので、どういう人を合格させたいのかを考えても)選べなくなってきてしまっているということです。一方で、(働き手が減って行くので)どの仕事にどんな人材を確保するかということを考えると、教育の仕方を考えなおさなければいけませんね。
森田)だから、大学教育のあり方もこれから変わってくるのですね。
河合)それで、入試でどういう子を選ぶのかという(入試改革の)話に先に行ってしまっているのです。
森田)入試の改革を先にやってしまっているけれど。
河合)本来は、(入学後に)きちんとした教育ができる体制を大学側がどうやってつくっていくのか、(さらには)産業構造の転換も含めてどういう分野に人材を送り出していくのかというところをこれから考えなければなりません。
ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。