ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月5日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。NATO加盟国間の関係のほころびについて解説した。
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NATO不和あらわに 11月4日、NATO首脳会議に参加したトランプ米大統領(手前)とジョンソン英首相(奥右)ら=ロンドン郊外(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社
中国を新たな脅威としてNATOを再度まとめたいアメリカ
イギリスのロンドンで開かれたNATO(西大西洋条約機構)の創設70年を記念する首脳会議は最終日の4日、共同宣言を発表した。世界的に影響力を増す中国への対応は「NATOとして連携して取り組む問題」という認識を盛り込んだ。首脳会議で中国問題を本格的に扱ったのは初めて。
森田耕次解説委員)NATO(北大西洋条約機構)は1949年に12ヵ国で発足しまして、2020年に北マケドニアを迎えて30ヵ国体制になります。創設70年を記念する首脳会議、30ヵ国に達する軍事同盟の現状と将来の在り方をめぐって協議をしました。共同宣言では中国への対応について「NATOとして連携して取り組む問題だ」という認識を盛り込みました。首脳会議で中国問題を本格的に扱ったのは初めてということです。中国を相当意識しているということですね。
佐藤)中国を意識しているというか、同盟の本質は潜在的な脅威がないとできないのです。NATOはソ連が東ヨーロッパまで共産圏を拡大した脅威に対してつくったわけですよね。そうすると、ワルシャワ条約機構という東側の同盟がなくなったら、本来NATOは歴史的な意義を失ったので解体してもいいはずなのですが、なんとなく残っていました。しばらくは、イスラムのテロ対策やユーゴスラビアの内戦などに対処しなければいけないのではないかと。しかし、そういうことはヨーロッパを本当に脅かしている脅威ではないので、まとまらないのです。トルコも独自の動きをしますし、NATOのなかでもポーランドやハンガリーはかなり強権的です。そのなかでアメリカは新たな脅威として中国を強調して、NATOをもう1度まとめ上げようとしているのでしょう。しかもその脅威は第5世代の移動通信システムや宇宙です。ところが、ヨーロッパ人からするとピンとこないのですよ。そしてイギリスは香港があるから別です。香港はかつてイギリスの植民地だったので、特殊な利害関係を持っています。それですから、足並みが揃っていないのだと思います。
森田)NATO加盟国のなかではトルコがアメリカに次ぐ兵力を持っているということなのですが、最近はロシアと接近していますので、NATO内でもぎくしゃくしています。
佐藤)(トルコは)ロシアから地対空防衛システムを購入しました。あと、ウクライナ問題に関してトルコはロシアに制裁をかけていないのですよ。モスクワへ行くと、トルコ産の野菜や乳製品がいっぱいあるのですよね。いまロシアはヨーロッパには制裁をかけていますから、制裁をかけている国の食料品を入れていません。トルコとイスラエルは制裁をかけていないので、トルコ製品やイスラエル製品はロシアでは簡単に手に入るのです。こういったところで、NATOのなかにいつの間にかほころびが出てしまっているのです。
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護衛艦いずも空母化へ 海上自衛隊の護衛艦「いずも」=2018年12月11日 写真提供:共同通信社
兵器はビジネス 値段はあってないようなもの
森田)トランプ大統領はアメリカが不当にヨーロッパ防衛のために大きな負担をさせられている、とドイツなどの加盟国に防衛費を出せと迫ったようです。国防費の適正な額、防衛予算の相場観というのは、いかがでしょうか。
佐藤)国によって異なるのですよ。いまの日本の防衛費の負担はだいたい相場だと思います。GDPの1%を少し超えているくらいですね。もともとのパイが大きいですから、それくらいというのはちょうどいいバランスだと思います。完全に自主国防体制にするということになると、今度はアメリカが困るのですよね。兵器の値段はあってないようなものです。そこのところで貿易摩擦の解消のための兵器購入は大きな意味を持っているのですよ。ヨーロッパにもその要素はあります。兵器というのはビジネスとしての要素があります。他の機械だったらまだ使えるものは更新しませんが、地対空ミサイルだったら新しいシステムができたら更新します。
森田)トランプは、NATOでいうと自動車貿易でアメリカに貿易赤字をもたらしているドイツに対して強く言っていますものね。
佐藤)「もっと負担するか、負担しないのであればアメリカの兵器を買え」ということですね。
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米ケンタッキー州の選挙集会で演説するトランプ大統領=2019年11月4日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
「さすが俺たちの親父」~記者会見キャンセルも喜ぶトランプ支持者
森田)トランプ大統領は個別の首脳会談の冒頭で記者団の質問に長々と答えてしまって、バッキンガム宮殿での歓迎行事に遅れていって、マクロン大統領やジョンソン英首相に笑われて、ムッとして記者会見をキャンセルしてしまったようですね。
佐藤)でも、これがトランプファンには受けるのでしょう。いままでの裏の国に操られている大統領だったらしなかったことを「さすが俺たちの親父だな」ということで、支持者の間では「男を上げた」と言われるでしょう。世間の常識ではひんしゅくを買うようなことをやればやるほど、トランプ支持者の間では「よくやった」ということになってしまうのでしょうね。
森田)NATOのなかではアメリカがいちばん力を持っているわけですね。そういう意味では、トランプさんが記者会見をキャンセルしてしまうのはNATOの象徴的なシーンだったというわけですね。
佐藤)面倒くさくなっていることは間違いないです。
ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20