米連邦高裁、死刑執行16年ぶり再開を停止~トランプ政権の方針を覆した背景

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月3日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。アメリカ高等裁判所の下した死刑執行停止の判断について解説した。

アメリカで死刑執行の再開停止

アメリカ・ワシントンの連邦高等裁判所は、連邦レベルでは16年ぶりとなる死刑執行について、差し止めを命じた連邦地方裁判所を支持する判断を下した。アメリカ政府は12月9日から来月1月にかけて4人の刑を執行する予定だったが、当面は見送られる公算が大きくなった。

森田耕次解説委員)アメリカは連邦レベルの死刑執行を16年ぶりに再開するとしたトランプ政権の方針に基づいて、12月9日から死刑囚4人の執行が予定されていましたが、ワシントン連邦高等裁判所は執行を差し止める判断を下しました。アメリカには連邦レベルと半数以上の州に死刑制度があります。使用する薬物の効果を疑問視する声を受けて、連邦レベルでは2003年を最後に死刑は執行されていませんでした。ところが今年2019年7月、アメリカ司法省は使用薬物の見直し作業を終えたということで、再開を発表しておりました。子どもを殺害するなどした死刑囚5人について、12月から2020年1月に執行するとしていまして、すでに1人については10月に別の訴訟で死刑執行停止の判断が出ていました。今回は4人について死刑執行差し止めの判断が下ったということなのですね。

野村)死刑については日本でも大きな議論になっていますよね。その際、よく「アメリカの死刑執行はもう殆ど実施されていない」という話を耳にしますが、必ずしも正確ではありません。今でも半数の州は死刑制度があり、死刑の執行も行われています。正確には29の州で死刑制度があるのですが、そのうち4つは州知事の指示によって死刑執行が停止されていますから、25、つまり半数の州という数え方になります。そのなかには頻繁に死刑が実施されている州もあります。アメリカの法制度はわかりにくいところがあって、各州にも死刑制度はあるのですが、合衆国レベルでも死刑制度が存在しています。これは、例えば通貨を偽造するような全国に及ぶ犯罪になると連邦で裁かれ、悪質な事件だと死刑になることもあります。こういった形でアメリカには死刑制度が残っていて、トランプ大統領は16年ぶりに執行しようと方針を立てたわけですが、その執行が裁判所によって差し止められたというのが、今日のニュースです。

製薬会社が死刑に使う薬物の販売を拒否

森田)連邦レベルの死刑では、これまでに3種類の薬物を注射して執行されていたということですが、近年は、不必要な苦しみを引き起こす恐れがあるということで一部の薬物が問題視されていました。それから、製薬会社には死刑執行に使う薬品の販売を拒否する動きも生まれているということなのですね。

野村)薬物を投与することによる執行の方が、亡くなるときの苦しみがないのではないかと言われてきたのですが、実態はよくわからず、苦しみを伴っているのではないかという指摘があるのです。そして、製薬会社としては人の命を救うために薬を作っているわけなので、死刑執行に使われることに抗議をしている部分があるのです。企業イメージがダウンするのは困るというわけでしょう。今回裁判所は、この死刑施行の際に投与する薬物の問題が解決されていないので、執行を停止すると判断しました。

全米で2673人~執行されないため増え続ける死刑囚

野村)「死刑」の是非を議論する場合には、それが治安の維持に役立つ制度なのかどうかということが実証されなければなりません。単に感情的な議論では済まない面があります。ただ、これはなかなか数字が取れないのですよね。死刑のあるなしに関わらず犯罪は起こっていますが、やはり死刑があった方が抑止されているという数字を提出する人もいて、議論は分かれているわけです。ただ、アメリカは死刑制度があっても執行が減っていっているのです。いま全米でいちばん死刑囚が多いのはカリフォルニア州ですが、733人の死刑囚がいて、1976年以降執行されたのは13人だけなのです。つまり、多くの死刑囚はずっと収監されたままでいるということなのです。死刑囚の人数がむしろ増えていっていますので、全米の死刑囚の数は2673人もいるのです。

森田)そんなにいるのですか。

野村)これをどうしていくのか、という問題もあります。

森田)日本でも確定死刑囚は100人以上だと言われていて、なかなか執行されないことも問題になりますが、アメリカはその比ではないですね。

野村)日本の場合でも死刑制度そのものについて、これが本当に意味のあるものなのか、それとも残虐な刑罰なのかというところで賛否が分かれています。国民的な議論を進めていって、みんなで考えていかなければいけない制度だと思います。

森田)日本の刑事訴訟法では刑が確定してから6ヵ月以内の執行ということになっていますが、それもその通りにはなっていませんし、どういった順番で執行しているのかという情報もなかなか公開されないところもあります。

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