条約に従わない韓国司法~解決見えない徴用工問題の根本
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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月10日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。元徴用工問題に関する日韓両国の主張の食い違いについて解説した。
日本の譲れない線---日韓請求権協定
2018年10月に、韓国の大法院が日本企業にいわゆる元徴用工問題での賠償を命じた。妥協点の見つからないまま韓国内の日本企業の資産が差し押さえられ、換金される懸念がある。なぜ両国の主張に食い違いが起こっているのか、野村修也氏が解説する。
森田耕次解説委員)日韓関係が“戦後最悪”と言われるようになったきっかけともいえるのがいわゆる「元徴用工問題」です。2018年10月に韓国の最高裁にあたる大法院はこの問題で日本企業に賠償を命じましたが、その後1年経った現在も妥協点が見つからない状況です。この元徴用工問題について野村修也さんに解説していただきます。
野村)この問題はいまの日韓の問題の最大の懸案事項ということが言えると思います。“妥協点”とありますが、日本には譲れない線があるのです。何故なのかというと、日本は日韓請求権協定というものを結んだときに、すべての補償は終わっているという立場なのです。かなりの金額を韓国に渡して、そのお金を使って賠償を要求する人たちに補償をしてくれ、ということを決めたわけです。最初は日本と韓国でここについて議論していた時期もあったのですが、これに対して韓国側が「韓国に一括して払ってもらったら、自分たちが責任を持って補償する」と言ったので、一括で払ったわけなのです。それをいまごろになってから「あのお金は補償にはならなかった」と言われても、日本としては納得できないのが1つのポイントです。この問題については裁判が行われています。日本の最高裁判所にあたる韓国の大法院が判決を下して、その結果日本の企業に対する損害賠償請求が韓国では認められてしまっていて、その判決に基づいて財産の差し押さえと換金が行われようとしています。それが来年のはじめには起こってくるということで、これをなんとか止めてもらわないと話が合わないというのが、日本の立場です。
当初は韓国の裁判所も請求を認めていなかった
野村)どうしてそういうことになったのかというと、韓国の裁判所も日本の裁判所も当初は旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工の方々に対して請求を認めない判決をずっと続けてきたわけです。日本では2007年の段階で、明確に個人が日本の企業に対して損害賠償を求める権利はあるが、それを裁判という形では請求しないという条約に基づく判断でした。これはサンフランシスコ講和条約もそうで、戦後補償はすべてその枠組みで決まったのだという立場でした。韓国のいわゆる旧徴用工と名乗っておられる方々が日本の企業に損害賠償請求をしたとしても、それは裁判では棄却されるということを両国で約束した、というのが日本の最高裁の立場です。
森田)最高裁はそういう判断を2007年に出しているということですね。
野村)韓国の裁判所で日本の企業に対する損害賠償請求を認める判決が出ていますが、その判決を元に日本のなかの企業の財産を差し押さえることはできないのです。ところが、被告になっている企業は韓国でも活動していますので、韓国のなかにある財産が差し押さえられて換金されてしまうということになるので、2つの国で全く違った法律判断が並存しているということになっています。どちらが正しいのかということですが、やはり条約でそれぞれの国の考え方を照らし合わせて決めているのですから、条約をきちんと守っていくことが大事なのです。日韓で戦後補償について話し合ったときに、これですべてを決着することになっていたのですから、国家間の約束を守ってもらわないと。ゴールを変えられてしまっては困るのです。どうして韓国がこんなことを言っているのかというと、大法院の判決を読んでみると、そもそも日韓併合条約自体が不適法だったというのです。
国と国の間の約束を反故にする韓国・大法院
森田)1910年のものですよね。そんな前。
野村)そこまで遡って。もともと日本の立場は、働いていただいた方々は当時日本人だったと。日本の人たちも強制的に徴用されて、みんなで働いていたのです。学徒動員がそうです。その一環として日本国民として働いてもらっていた人たちなので、働いたこと自体についてはあると。ただ、補償される必要があるのは給料が十分に払われないまま帰国されてしまって未払いになっている人たちがいるから、その分を払いましょうということだったのです。それを、そもそも自分の国の戦争に朝鮮半島出身者を駆り立てて強制的に使ったこと自体が違法だからそこに対して謝罪と賠償をしろ、という「新しい話」になったのです。だから食い違いが発生していて、歴史問題になってしまうということなのですよね。
森田)司法トップの最高裁がこういう判断を下すということ自体が、韓国の司法はどうなっているのだと思いますよね。
野村)自分の国には自分の国の考え方があるのは確かですが、いちばん大事にしなければいけないのは国と国の間の約束ですよね。この約束を反故にするような判断を最高裁判所のようなところが行うということについては、慎重でなければいけないはずなのです。しかし、韓国の方々は「三権分立で条約とは関係ない。裁判所は勝手な判断ができるのだ」と言っていますが、それは違います。裁判所も国家の1組織ですから、国が結んだ条約に従っていかなければいけないわけです。そこが掛け違ってしまっているのが根本の問題かなと思います。
ザ・フォーカス
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パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。