米黒人死亡事件~日本人には難しい“問題の背景と歴史”

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月3日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。白人警官による黒人暴行死に対する抗議デモが全米各地で暴徒化している問題について解説した。

トランプ大統領、過激化する抗議デモに軍を派遣すると警告

アメリカで白人の警察官に拘束された黒人男性が死亡した事件で、抗議デモの一部の参加者が暴徒化していることを受け、トランプ大統領は1日、「各州の知事や市長が必要な行動をしないなら軍の配備も辞さない」と警告した。抗議デモは、全米140以上の都市に拡大している。

飯田)拡大する抗議デモと暴動に対して行った演説のなかで、「軍の投入を辞さない」と。この場合の軍というのは連邦軍ということですよね?

佐々木)そういうことですね。日本とは軍の構成が違うのでわかりにくいのですが、アメリカには陸軍、海軍、空軍、それから海兵隊という4軍の連邦軍と、それ以外に州兵という各州ごとに州知事が命令できる兵があって、州兵が暴動鎮圧に行くのはよくあることなのですが、連邦軍が行くことはあまりありません。過去で有名なのは、1992年のロサンゼルス暴動です。過去最大の暴動と言われていますが、あのときに連邦軍が出て鎮圧にあたりました。さらに遡ると、州兵と連邦軍が対立したケースもあります。1957年に黒人の人権を確立しようという公民権運動がありました。リトルロック高校というアーカンソー州の高校に黒人の少年が入学して、学校に行こうとしたら、当時は人種差別が激しかったので知事が州兵を出して、通学を妨害したのです。それに対して、当時のアイゼンハワー大統領が連邦軍を動員しました。その黒人少年は連邦軍の警護によって、州兵の守っている学校に行った。そういう軍同士で対立するということもありました。

暴動を起こしているのは「アンティファ」なのか「白人至上主義者」なのか~日本からでは理解しにくい問題

佐々木)今回の件に関しては、日本からすればわかりにくい話が多すぎる。黒人が白人警官から受けた暴行に対して抗議しているから、黒人が暴動を起こしているのかと思ったらそうでもなくて、白人が窓を壊したり商店から略奪しているケースがあります。その白人は、一部では「アンティファ」というアンチ・ファシズムを意味しますが、単なる反ファシズムではなくて、いわゆる極左です。その「アンティファがやっている」と言う人たちもいれば、「あれは右派である白人至上主義者が乗っかっている」と左派の人は言っています。どちらもアメリカの暴動を利用して、自分たちの政治発言をしているようにしか見えないので、どちらが本当なのか正直なところよくわからないです。ここは冷静に見守って、それを日本国内の政治的な動きに利用しないほうがいいのではないかということです。

飯田)ニュース番組をやっていますと、「なぜこの情報は扱わないんだ」と言われることがあります。日本国内にいながら、アメリカの政治で踏み絵を踏まされているような、分断につながる。なぜアメリカの話で日本が分断されなければいけないのだと思いますね。

佐々木)何かの問題が起きると、すぐに「佐々木はどう発言しているんだ」とか「だんまりを決め込んでいる」と言われる。だんまりを決め込んでいるのではなく、そこまでの材料がないから発言していないだけの話であって、もう少しアメリカからメディア経由などでいろいろな情報が出て来て、判断できる材料が揃ったところで、我々はゆっくり議論すればいいのだと思います。

飯田)もちろん、メディアによる特性も織り込みながら、そこも冷静に見て行く。

佐々木)FOXがどう言っているか、CNNがどう言っているかで全然違いますからね。

混乱は92年の「ロス暴動」よりも長引いている

飯田)海外からメールをいただいています。45歳の“紅の豚”さんです。「南カリフォルニアに住んで20数年です。いま全米で大きくなっているデモですが、私の住んでいる南カリフォルニアでも日に日に大きくなっていて、5つの大都市群のうち、3都市群全土で夜間外出禁止令、2つの都市群の数市でも同様の措置が取られています。デモが過激化し、略奪、強盗が頻繁に起こり、州兵が動員されたにも関わらず、きょうで8日目に突入します。92年の暴動は6日で収束したのですが、今回はコロナ禍の影響もあって、まだまだ続きそうな感じがあります」。

佐々木)92年の暴動は、ロス暴動ですね。

被害者の弟は暴動を批判~決して過激な行動をすることではなく、折り合いをつけるのが政治の本質

飯田)この一連の抗議活動のきっかけとなった、亡くなった黒人の方のジョージ・フロイドさんの弟さんが、「暴動するということは兄も望んでいない。何をやっているんだ」と訴えているらしいです。

佐々木)政治的な原動力として、怒りは大事だと思います。ただ、怒りだけでは何も解決しません。怒りに加えて、その先にもう1つ建設的な動きが起きて来ない限り、前には進みません。怒りを否定するのも間違いだし、それだけを肯定するのも間違いなのではないでしょうか。

飯田)公民権運動の話が出ましたが、あのときは、黒人の人権を糾合して訴えるマーティン・ルーサー・キング氏というリーダーがいたのは大きかったですね。

佐々木)単に暴動を起こしているだけであれば、ああいうことにはならなかったでしょう。

飯田)マルコムXのように、過激で暴力的なところにも行きがちな部分を引き戻した、あのリーダーの力は大きかったのですね。

佐々木)最後にまとめるのは政治なのですよ。政治の本質は、決して過激な行動をすることではなくて、折り合いなのです。いろいろな意見を調整して、最終的に何らかの解決策を見つけるということが政治の本質なのです。そこを履き違えて、みんなで怒鳴り合えばいいと思っている人が多すぎるのが問題なのだと思います。これは日本にも言えることです。

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