韓国のアリバイづくりにすぎない~日本をWTOに提訴
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月19日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。韓国が日本の輸出管理をめぐり、WTOに提訴したニュースについて解説した。
WTOパネル~紛争処理小委員会
韓国政府は日本政府が2019年7月から、韓国向けの半導体の原材料など3品目の輸出管理を強化した措置が国際的な貿易ルールに違反しているとして、世界貿易機関(WTO)に対し、紛争処理小委員会(パネル)の設置を要請し、提訴した。
飯田)去年(2019年)の夏ごろからくすぶっていたところが、また発火して来ました。どうしてこのタイミングなのでしょうか?
韓国のアリバイづくり~日本は受けて立てばよい
宮家)アリバイづくりでしょうね。確かに、WTO協定ができたときは紛争処理制度が目玉でした。案件を持って行くと、小委員会の方は余程反対がない限り、とにかく受理はする。受理して結論が出るわけですが、それは第1審のようなものだから、第2審が重要になる。それが上級委員会です。しかし上級委員会はいま委員がいないから、開店休業状態なのです。そのことを韓国も当然わかっていてやっている。彼らにもロジックがあるのかも知れませんが、日本も十分に理論武装をしてやっています。しかし、上級委員会でおそらく結論は出ない。それを承知でやっているということは、アリバイづくりです。WTOパネルというのは、死刑宣告でも何でもない。ただの紛争解決の手続きですから、日本は受けて立てばいいのです。
中国が入ってWTOが機能しなくなりつつある
宮家)韓国の問題もあるけれど、より大きな問題はWTOという国際機関そのものだと思います。私が外務省で経済局に異動する直前にWTO協定ができたのですが、当時は中国のWTO加盟交渉も経験しました。実は、私は中国の加盟には反対していました。私一人が反対しても、どうにかなるものではありませんが…。そもそも、WTOではコンセンサス、つまり満場一致で物事を決めるのです。当時からもちろん、ブラジルやインドなど、付き合いの難しい国々はありましたが、それでも何とか妥協してコンセンサスを取り、ルールを1つずつつくって行ったのです。ところが、中国を入れるとなると、話は別です。彼らはコンセンサスには絶対に参加しないですよね。しかも、加盟するときには中国に対して、相当下駄を履かせ、一種の特権を与えている。彼らは自分たちを「途上国」と言っているわけだから、普通であれば認めないさまざまな特別扱いを、仕方がないので認めていたところもあったのです。問題はあれから20年たったいまでも特別扱いを維持していること。それを変えるにはコンセンサスが必要になり、彼らは当然それに反対するから合意はできない。それから、WTOが機能しなくなり始めたということです。上手く機能していたのは中国が入るまでですよ。いまは機能しなくなりつつある。それが理由かどうかは別として、特にトランプさんは、このような国際機関は大嫌いですからね。
WTOの改革をする時期に来ている
宮家)自由で開かれた貿易秩序をつくるためにできたWTOという国際機関が、1つの曲がり角に来ているのだと思います。それは改革しなければいけない。そして、中国のように、一方では自由貿易と言いながら、自由でない管理貿易そのものをやっていて、自由貿易システムのいちばん「美味しい」ところだけすべて吸い取ろうとする。これではだめなので、WTOのルールを変える、もしくは中国の途上国的な特別の地位を、他のWTOの通常メンバーと同じにするなど、いろいろ改革の方法はあります。WTO協定のもとで貿易ルールができることによって、世界の貿易が広がって行くのですが、いまはそれが機能しない。TPPもそうですが、各地域だけの協定になってしまっている。本来WTOが目指した、あるべき姿に戻すために、WTO全体の改革を考えなければいけない時期に来ていると思います。
飯田)確かに中国は、補助金を企業に入れるなどということをしています。関税もそうですけれども、関税以外にもいろいろと優遇されています。
宮家)彼らは自由貿易だと言っているけれど、それは国家資本主義の自由貿易だから、彼らにとっては自由かも知れないけれど、我々としては自由がある以上、義務もなくてはいけない。義務を果たさずに、「美味しい」ところだけ取ることは許されないことなのです。でも、彼らは上手く手に入れた「特権」ですから、絶対に手離さないでしょう。そうしたら、何が起こるかというと、WTOという組織自体が壊れて行くということにもなりかねない。韓国のアリバイの提訴だけでなく、WTOはもっと大きな問題を抱えていると言うべきだと思います。
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