中国軍とインド軍が衝突~石を投げ合っての戦いとなったワケ
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月22日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。ヒマラヤ山脈のラダック地区で起きた中国軍とインド軍の衝突について解説した。
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インド軍死者20人に 16日、インド北部で防空壕をつくるインド兵(アナトリア通信・ゲッティ=共同)=2020年6月16日 写真提供:共同通信社
中印国境問題
中国とインドの国境、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に囲まれた標高4300メートルの旧ジャンムー・カシミール州東部ラダック地区ギャルワン渓谷あたりで15日、中印両国が衝突し、両軍合わせて60人以上の死傷者が出ている。
飯田)両軍の衝突で死者が出たのは、1975年以来。しかも、重火器を使ったわけではなく、当初は石や警棒などを使ってのものだということです。
奥山)火器重機を使用しない、ローマ時代より前の古代の戦いのようですね。しかも、やっているのが4000メートル級の高地ではないですか。
飯田)富士山以上の高さです。
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インドのナレンドラ・モディ首相(インド・ニューデリー)=2019年5月21日 写真提供:時事通信
核保有国同士だからこその石による戦い
奥山)空気の薄いところで殴り合いもやって、投石もやってという、どれだけ原始的な戦いなのだということがまず驚きです。日本ではなかなか注目されないのですが、この国はどちらも核保有国です。核兵器を持って睨み合いをしている国故に、「エスカレートさせたくない」という気持ちがあるのです。1発でも撃ってしまうと、下手をすると核戦争になってしまう。両軍ともに「エスカレートさせるのはやめようよ」という総意ができているわけです。核兵器があることによって、原始的な戦いの方に行ったということが面白いですね。
飯田)これも一種の核抑止力ですか?
奥山)そうだと思います。核があることによって、戦いが非常に低いレベルで抑えられている。それがいいかどうかは別として、そのために武器ではなく石を使う。これは核保有国同士だからこそ起こる、不思議な現象です。
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人民大会堂で、政府活動報告を聴く中国の習近平国家主席(中国・北京)=2020年5月22日 写真提供:時事通信
インフラの整備によって紛争場所に早く行けるようになった
奥山)もう1つは、インドがここまで過激にやっている、いまやる気を起こしているのは見逃せない部分だと思います。今回の動きの前に、インドは道路をつくっています。これまで、そこに至るアクセスが難しかったのですが、道路をつくって整備し、なおかつ、その上にあるダウラト・ベグ・オルディという5000メートルくらいの標高に、滑走路があるのです。そこの基地に対するインフラ整備をやって、紛争の場所に早く行けるようになったことにより、紛争がしやすくなるという状況が生まれたわけです。早く移動ができることで、紛争の舞台に行きやすくなるという状況が生まれているのが、1つの大きな鍵になっているのだと思います。
飯田)ここ20年くらいで考えると、中国側の方もチベットに青蔵鉄道を通したり、大きな滑走路をつくっています。
奥山)お互いに、衝突しやすくなる状況が生まれているところが見逃せない。前はそこに行けないので、「そこで戦うのはやめようよ」というところがあったのですが、今回は逆に行きやすくなってしまったので、舞台は整ったのだと見ることができます。