新型コロナウイルス対策、さまざまな技術的アプローチ

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「報道部畑中デスクの独り言」(第215回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、新型コロナウイルスに関して共同実験が行われた、「光触媒」の技術について---

新型コロナウイルス対策、さまざまな技術的アプローチ

大阪の家電ベンチャー「カルテック」が発売した首掛けタイプの除菌脱臭機

新型コロナウイルスの影響はいまも続いています。フランスではマクロン大統領が現状について「第2波」と認めるなど、世界的には感染再拡大の動きさえ出ています。日本でもこれから冬にかけて、その可能性はゼロとは言えず、1人1人が備えて行く必要があります。

さて、コロナ対策と言えば、ワクチンを筆頭にさまざまな開発が急がれていますが、なかにはこんな技術的アプローチもあります。大阪に本社を持つ「カルテック」という家電メーカーが、ある実験結果を発表しました。

核となったのは「光触媒」の技術。光触媒とは、光を当てることで触媒としての作用を示す物質で、代表的なものとしては酸化チタンがあります。今回、この酸化チタンをフィルターに塗った除菌脱臭機で、新型コロナウイルスを抑制する効果が確認されました。

日本大学と理化学研究所が共同で行った実験で、密閉した空間にコロナウイルスを噴霧し、なかにある除菌脱臭機を作動させたところ、20分間で99%以上のウイルスが減少=検出限界以下になったということです。吸着したウイルスや悪臭成分の分解作用が生きた形となりました。

「光触媒のコロナウイルスに対する効果を実証できた。何とかこの実証データを基に、光触媒技術を製品に活用して、世界の“ウィズ・コロナ”のなかで安心・安全に皆さんが暮らせるような商品を創出して行きたい」

カルテックの染井潤一社長は、記者会見でこのように語りました。現状は実験室レベルの結果にとどまり、今後、さまざまなケースについての実証が求められます。

また、除菌脱臭機や空気清浄機のような家電製品は医療機器ではないため、「新型コロナに効果がある」と宣伝することは、法律上できません。ただ、この光触媒が今後、コロナ対策の技術として注目される可能性はあります。

ちなみに、光触媒の反応を発見したのは日本人です。それは東京理科大学の学長も務めた藤嶋昭さんと、故・本多健一さん。1967年に水中にある酸化チタンの板に強い光を当てたところ、酸素が発生しているのを世界で初めて発見しました。

つまり、酸化チタンに光を当てるだけで、水が酸素と水素に分解され、電気が得られるという現象です。この現象は「本多-藤嶋効果」と呼ばれています。

研究が進み、特に酸化チタンは防霧=鏡やガラスの曇り止め、防汚=外壁や塗装(コーティング)への活用、ガス分解=空気清浄機、抗菌=タイルや繊維、水の浄化=水処理装置など、さまざまな用途に使われています。

実はこの「光触媒」という言葉、この時期になると特に耳にします。研究者の1人、藤嶋さんはノーベル賞の有力候補に毎年のように出て来る名前なのです。

一方、カルテックという会社は2018年4月に創業されたばかりで、家電業界ではベンチャー企業に属します。染井社長はシャープ出身のエンジニア。学生時代にこの光触媒を研究し、シャープ入社後、この技術を使った事業を目論みましたが、シャープの空気清浄化技術は「プラズマクラスター」がメイン。

「世界の学者が認めた技術。世界の環境に貢献できることをやりたい。光触媒しかない」……光触媒の事業実現にこだわる染井さんはシャープを退社し、現在の会社を立ち上げます。現在の従業員数は27人、その多くはシャープ出身者だそうです。

かつて大手家電メーカーにいた技術者が集い、新機軸を打ち出している会社としては、宮城県に本社があるアイリスオーヤマが有名ですが、カルテックという家電ベンチャーが、独自の光触媒技術で並みいる大手にどう挑むのか……そんな面からも注目です。(了)

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