ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月27日放送)に前統合幕僚長の河野克俊が出演。11月24日に行われた日中外相会談後の共同記者発表について解説した。
中国の王毅外相の尖閣諸島をめぐる発言、自民党の外交部会が批判
自民党は11月26日、外交部会と外交調査会の合同会合を党本部で開いた。11月24日に行われた日中外相会談後の共同記者発表で、中国の王毅国務委員兼外相が尖閣諸島の領有権を一方的に主張したことに関し、政府に十分な反論を求める声が相次いだということだ。近く、決議文をまとめ、茂木外務大臣に申し入れる方針である。
飯田)きちんと抗議するとともに、その旨を記者会見で明らかにすべきだという意見がかなり出て来たということであります。あの日中外相会談とその後の発表は、普通に見ていても違和感を覚えるのですが、いかがですか?
看過できない王毅外相の尖閣諸島に関するコメント~日本も世界にわかるアピールが必要
河野)今回の王毅外相のコメントで、「一部の真相がわかっていない日本漁船が釣魚島(魚釣島の中国名)周辺の敏感な水域に入る事態が発生している」という発言がありました。ある報道によると、「偽装漁船」という言い方をしたとも聞いているのですが、これは看過し難い言葉です。しかも、それを共同記者会見で言っているわけですから。外相会談で、当然日本は抗議もして反論もされているのでしょうけれども、表に出なければ意味がありません。共同記者会見で言ったということは、世界に発信しているわけですから、ここは日本もそれ相応の発信をしていただきたいですね。そしてこれは志位共産党委員長も述べておられます。
飯田)憤っていると。
世界では「尖閣問題は日本と中国の係争地」と認識されている
河野)ここはそういう姿勢を示す必要があるのです。中国は攻撃的なメッセージを世界に発信します。ところが日本の場合は、「遺憾だ」とか、「受け入れがたい」、「前向きな行動を要請した」など、どちらかというと受け身のステイトメントが多いのです。
飯田)何となくオブラートに包んだような。
河野)そうなのです。世界の人たちは、はっきり言ってもらった方がわかるのです。この差がずっと出て来ていて、ついに公平に見て、「尖閣問題は日本と中国の係争地だ」という認識が世界でおそらく広まっているのです。日本にとっては、係争地でも何でもないのですよ。それが日本のスタンスです。アピールの差で、こういうことになりつつあるということです。私はもっと「世界にわかるアピール」が必要であると思います。
飯田)王毅氏が言ったあの発言も、中国共産党のラインに乗っかったものだと思います。それに対して、何も言わずにニコニコしていたということは、別のメッセージとして見えてしまうことになりますよね。
河野)世界は日本のメッセージが弱いとなると、日本の根拠の方が薄いのではないかと解釈します。日韓に関してもそれは言えるのです。韓国も攻撃的なメッセージを発信します。それに対して日本は、どちらかというと同じ土俵に乗らないというスタンスだとは思いますが、「大人の対応」ということで受け止めるのです。大人の対応をして自己満足に浸っている分にはいいのですが、世界はそうは見ないというのが現実です。やはりここはもう少しはっきりと述べるべきだと思います。
王毅外相との記者会見の反省をして、やり方を練り直すべき
飯田)実際に河野さんは統合幕僚長の時期も含めて、海自の士官をされていたころから、海外との付き合いが多かったと思います。これまでで、このような話をしたときに「日本側のメッセージが伝わっていないな」と思うことはありましたか?
河野)そういう面があったと思います。私が統合幕僚長のときは、日韓が非常に厳しい時期でした。いわゆる旭日旗、自衛艦旗を上げて来るなと言われましたし、P1機に射撃用のレーダーを照射されるという事件もあり、いろいろなやりとりがありました。向こうも厳しい言い方をして、「無礼だ」ということを言って来ました。政府内で反論のトーンを決めるわけですが、私ができる範囲で、自分の言葉ではっきり反論するように努めました。そうしないと、相手にもわかってもらえないし、世界の人たちにもわかってもらえないというのが私の認識でした。
飯田)その反論の仕方として、定期に行われる幕僚長会見だけではなく、例えば外国人記者協会など、さまざまなチャンネルで発信されようとしましたよね。
河野)端的に言うと、顔を見せないとわかってもらえないのです。いろいろな対応をしました。
飯田)トップが発信するのと、報道官が発信するのではまた違うわけですか?
河野)それはまったく違いますね。トップの言葉は、組織を代表しているということになりますので。
飯田)では、今回も茂木さんが何もやらなかったと。翌日に外務報道官の会見で、「会談のなかではきちんと反論していたのだ」と述べましたが、遅れてこのように出されることはどうですか?
河野)会談のなかでは反論されていたのでしょうが、「反論した」というだけで、それは表に出ていません。しかし、王毅外相は、共同記者会見で世界に発信したわけです。その差は出て来ますよ。私はもう一度、やり方を練り直した方がいいのではないかと思います。
政府の決定に従う自衛隊
飯田)尖閣をめぐってと言うと、産経新聞の記事にもなっていますが、民主党政権時代、尖閣諸島の周辺海域に中国海軍の艦艇が接近した場合、「海上自衛隊の護衛艦は、相手を刺激しないように見えないところにいろ」と官邸に言われたということを、河野さんは都内の講演でおっしゃっています。やはり官邸の意向によって、現場での行動も、相当変わるところがあるのですか?
河野)もちろんです。シビリアン・コントロールですから。私どもの意見はありますが、最終的に政治が決定したことには、絶対に従わなくてはいけません。民主党政権、特に野田政権のときに尖閣諸島を国有化しまして、中国が攻撃的な行動に出て来ました。当時の政府の判断としては、「ここは自制して刺激をしない」ということだったと思います。我々はその判断に従ったということです。しかし、安倍政権になって、「明確に領土領海を断固守る」という方針に変更されました。それに我々は従ったのです。
飯田)任期の期間中も含めてですが、目の前で中国が攻撃的に出て来るところに直面されて来ました。ここ10~20年の動きを見ると、やはりエスカレートして来ているのですか?
河野)エスカレートしていますね。私のときも、ヘリコプターと護衛艦に対して、火器管制レーダーを照射されました。中国から照射されたのですが、尖閣というホットスポットの近くでやられているわけです。韓国から照射されたときは、友好国ですから、何かの間違いだと思ったのです。それが変な方向に行ってしまったのですが、中国の場合ですと、「攻撃行動」と認識するのが普通ですので、それはもう緊張しました。私のときより、もっとエスカレートしているのは、合法的に漁をしている日本の漁船に対して、海警という向こうの警察組織、ほぼ軍隊ですが……それが追いかけ回すという法執行をしているわけです。それは私のときにはありませんでした。そういう面では、エスカレートしていると思います。
外国からの攻撃的な行為に対し、常に日本がリアクションを取っている
飯田)それは中国が、ですか?
河野)それはもう中国です。尖閣だけでなく、北朝鮮についてもそうですが、すべからく日本はリアクションを取っているわけです。向こうがエスカレートさせたことに対して、常にリアクションを取っている。当然、日本からエスカレートさせるべきではありませんので、そこは冷静に対応をするべきだと思いますが、構図としてはそういうことです。
飯田)いま現場では海上保安庁が必死にやっているという感じになるわけですか?
河野)中国は海警を公船と言っています。しかし、これは軍組織に組み込まれているのです。これに対して海上自衛隊の護衛艦が行くと、向こうに口実を与えるということもあるので、ここは海上保安庁が対応しているのです。しかし、その近くには必ず中国の軍艦がいます。これについては、海上自衛隊が対応しています。先ほども言いましたように、安倍政権以降はきちんと見えるところで、こちらもプレゼンスを示すという方針になりましたので、そういう対応になっています。
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