イギリスがTPPへ参加する本当の理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月21日放送)に東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が出演。英トラス国際貿易大臣がTPPへの加盟を明らかにしたというニュースについて解説した。

ボリス・ジョンソン首相=2019(令和元)年9月3日、英ロンドン(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

イギリス、発足国以外で初のTPP加盟へ

イギリスのトラス国際貿易大臣は1月20日に行われた講演で、日本など11ヵ国が参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を近く正式申請する方針を明らかにした。実現すると、発足時の参加国以外による正式な加盟申請はイギリスが初めてとなる。

英中部マンチェスターでの与党保守党大会で演説するジョンソン首相=2019年10月2日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

EU離脱で自由貿易協定を結ぶことが可能になったイギリス~英連邦との強い関係も

飯田)「環太平洋」という名前が付いているので、ASEAN周辺の国がチャレンジするのかと思いきや、イギリスが加盟へと。これは戦略的な意図があるのでしょうか?

鈴木)イギリスは今年(2021年)に入ってEUを離脱して、自由に自由貿易協定を結べる立場になりましたので、手当たり次第と言うと語弊がありますが、いろいろなところとの戦略的なつながりを持とうとしています。イギリスから見れば、コロナ禍でも相対的に成長の軌道に乗っているアジア諸国との経済関係を結びたいということもあります。またTPPはいま11ヵ国でつくられているのですが、そのうち6ヵ国はいわゆる英連邦、イギリスの旧植民地になります。オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、カナダ、ブルネイ、こうした国々との、もともとの関係も強くありますので、そういうなかでいままで自分が持っていた経済圏を通じて、アジアに広がる自由貿易圏に参加したいということだと思います。

飯田)なるほど。

鈴木)ただ、実質的には、中国に対抗するという側面もあります。また、イギリス自体が経済的にも苦しく、規模としても大きいわけではない。アジアとの取引もそれほど大きいわけではないので、そういう意味で考えると、象徴的なところが大きいかなという気がします。

香港のホテルに開設された中国の治安機関「国家安全維持公署」の看板(中国・香港)=2020年7月8日 写真提供:時事通信

香港に対する中国の抑圧によって潮目が変わった英中関係

飯田)かつてキャメロン政権はかなり中国に寄っていたという印象がありましたが、そこは舵を切りましたか?

鈴木)中国との経済的なつながりはいまでも続いていますし、キャメロン政権、メイ政権までは中国との親密な関係を重視して来たわけです。潮目が変わったのは、中国による国家安全法の成立と香港に対する抑圧。これによって、一国二制度、これはイギリスと中国のあいだで結ばれた協定のなかで一国二制度というものが決められているわけですけれども、それを中国が一方的に反故にしたというところが対中政策の大きな転換点だったのではないかと思います。

飯田)クイーン・エリザベスという空母をアジアに持って来たりと、積極的ですよね。

鈴木)中国に対して「自分たちも行動するのだ」という意思表明です。いまのイギリスの力では、中国に対して単独で圧力をかけることは難しいと思いますが、「いざとなればアメリカや日本と協力して圧力をかけるぞ」という意思表示をしたと見るべきでしょう。

就任式で宣誓後、手を振るバイデン米新大統領=2021年1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

イギリスが重視する「米英自由貿易協定」~バイデン政権になりやりにくくなる

飯田)その辺り、バイデン政権に変わって、イギリスとアメリカはもともと特別な関係とも言われていますが、ここは続いて行くということですか?

鈴木)ボリス・ジョンソン首相は極めてフレキシブルな人なので、トランプ政権のときはトランプ大統領とも親密な関係ではありましたけれども、バイデン政権になったからといって関係が悪くなるかというと、そんなことはありません。バイデン大統領ならバイデン大統領で、うまく付き合って行くという発想だと思います。何はともあれEUを離脱してしまったので、これからイギリスは、単独でいろいろな国とうまくやって行かなければいけない。とりわけ重視しているのが、イギリスとアメリカの米英自由貿易協定です。これがバイデン政権になったときに前進するかというと、バイデン政権もアメリカ国内の労働者、特に中産階級の人たちを守るということで、米英の自由貿易がそれにとってプラスになるとバイデンさんが判断しなければ、前には進まないだろうと思います。トランプ政権のときよりはやりにくくなったところがあるのではないでしょうか。

飯田)先ほどもありましたけれども、2022年には中間選挙もやって来る。その辺りも睨むと、なかなか思い切った妥協というのもバイデンさんはやりづらいですか。

鈴木)そうですね。トリプルブルーとよく言われますけれども、上下両院と大統領が全部民主党になったというところは、政策を進めやすい条件が整ってはいますが、上院の半分はトランプ大統領の弾劾をやらなければいけないということもありますし、ギリギリのところの多数なので、必ずしも上院も自由にできるわけではないです。

飯田)そうですね。

鈴木)もう1つは民主党の左派です。上院にも何人もいますけれども、かなり労働者の権利ですとか、貧富の格差。こういったことに強い政策を持っている人たちが多いので、バイデン政権が自由貿易を進めようとしてもなかなかうまく行かない。よくTPPの復帰があるかとも言われるのですが、これもかなり私はハードルが高いと思っていて、やはりTPPに反対するのは、とりわけ中西部のラストベルトと呼ばれる工業地帯です。ここの人たちにとっては自由貿易、TPPというのは悪いことというのが染みついてしまっているので、いまからバイデン政権になって「TPPに戻るぞ」ということになると、2022年の中間選挙が苦しくなりますし、バイデン政権も最初から“unity”と言っているのに分断が進むような、そういう恐れもあるので、なかなかそちらに踏み切るのは難しいのではないかと思います。

飯田)それだけ内政の部分を重視しながらやって行く。そのなかで外交をするバイデン政権で、閣僚の布陣から、ヨーロッパや中東に目が向いているのではないかと指摘する向きもありますが、それはどうですか。

鈴木)かなりそういう意識はあると思います。いま公聴会を開いていますけれども、指名承認されれば国務長官になるブリンケンさんは、フランスに住んでいたこともある人ですが、大変ヨーロッパに向いています。大統領安保補佐官になったサリバンさんや国務副長官になったウェンディ・シャーマンさんという人は、イラン核合意の中心的な人物でもあったので、中東に関する関心も強いということが言えると思います。他方で、アジア系の人の閣僚の登用がほとんどなかったというのが大きな特徴です。多様性と言いながらも、女性やアフリカ系の人たちは多かったのですが、アジアカラーは薄いと思います。ただ、先日の公聴会を聞いていても、国防長官候補、それから国務長官候補、いずれも中国に対する関心は強かったので、対中政策というところからバイデン政権はアジア政策を組み立てて行くと見るのが妥当でしょう。

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