トランプ氏弾劾裁判~米民主党と共和党それぞれの「事情と思惑」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月29日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。トランプ前大統領の弾劾裁判、そしてアメリカ内政の行方について解説した。
トランプ前大統領の弾劾裁判~無罪となる可能性が高まる
支持者を先導し、アメリカの連邦議会議事堂を襲撃させたとして弾劾訴追されたトランプ前大統領が、2月9日に開催される予定の上院の弾劾裁判で無罪となる可能性が高まっているようだ。上院では1月26日、弾劾裁判は違憲だとする動議について、5人を除く共和党議員が賛成。動議は否決されたが、トランプ氏を有罪とするには、少なくとも17人の共和党議員が賛同する必要があるため、情勢は困難と見られている。
飯田)何と言っても50対50ですからね。
トランプ氏を弾劾訴追する本当の目的~政界復帰を妨げる
宮家)弾劾裁判が有罪になる可能性はもともと低いと思っています。大統領ではなくなってしまった人を弾劾裁判にかけられますか、仮に弾劾が始まったとしても、「被疑者は今や大統領ではない」という考え方もあるのです。もちろんトランプさんがやったことは許されることではありません。バイデンさんを含めた民主党の人たちの本当の目的は、弾劾することよりも、トランプさんに政治的ダメージを与えて、政界に復帰できないようにすることだと思います。ですから、いろいろな形で圧力をかけている。その一環として、この弾劾問題を扱っているのです。ですから、そう考えている人にとっては、残念ながら弾劾裁判での有罪は難しいということです。
飯田)2024年の、次の大統領選に出て来られないようにするというところですか?
宮家)その前に中間選挙が2022年にありますよね。その段階で、共和党がどれくらい票を獲得できるかが問題です。とにかく上院では過半数がないわけですから。そうなると、どうやって巻き返すかということを考えますよね。共和党の上院のリーダーはミッチ・マコーネルさんですが、彼の立場からすると、いままでかろうじて上院では多数を占めていました。しかし、今回は50対50になってしまった、これはまずいと。次の中間選挙で巻き返さないと、民主党にやられ放題になりますから、戦わなくてはいけない。戦うのだけれども、共和党はいろいろなグループの集まりです。もともとは伝統的な正統の自由主義者、小さな政府、個人の自由を重視する人々、これが正統の共和党員だと思うのですが、この人たちのような保守の塊がいる。それから、いろいろな大企業の利益を代表する人たちも入って来る。お金が入りますからね。それに加えてレーガン・デモクラット、レーガンが連れて来た民主党員がいる。1980年の選挙のときに、アメリカ南部にいた民主党の保守派がレーガンのもとに馳せ参じたわけです。そこで、共和党が保守合同を成し遂げ、反共の、小さな政府を目指す政府として、レーガン~ブッシュ時代があった。しかし、冷戦が終わってしまい、その保守の結束が緩んで来た。それからいろいろな動きがあって、最終的にトランプさんが共和党を乗っ取って壊してしまったということです。
トランプ氏に反対できない共和党員~その背景には2022年の中間選挙
宮家)ということで、いま起きていることは、マコーネルさんからすれば一大事です。お金が入らないことには選挙ができないのだから、大企業は引き続き捕まえなくてはいけない。しかし、草の根の票は、相当トランプさんに持って行かれてしまっているわけです。ということは、そもそもトランプさんに反対すると、トランプさんの支持者が押しかけて、予備選の段階で潰されてしまうかも知れない。まして再選を狙っている共和党の議員からすれば、これは危なくて仕方がない。トランプさんが屋ていることはおかしいと思っていても、トランプさんと喧嘩して選挙に負けたら何も意味がない。そうなると皆が黙るわけです。その黙っている人たちが上院では既に二十数人いて、どうしようと迷っている人が十数人いて、全部で50人いる、これが上院の共和党議員です。そのなかでは「トランプは怖い」と思っている人の方が多いだろうと思います。トランプさんはまだ完全に息の根を止められていないからです。
飯田)フロリダに事務所をつくったということです。
難しい共和党・マコーネル氏の選択
宮家)おそらく新しいメディアをつくるか、新しい政党をつくるか……。共和党指導部に揺さぶりをかけているのです。確かにツイッターやフェイスブックは使えなくなってしまったかも知れませんが、トランプさんだっていろいろな手を使って発信すればいいわけです。となると、共和党のなかでトランプ外しの議論はいろいろ出て来るのだけれども、結局まとまらない。というわけで、マコーネルさんはどうやって2022年の中間選挙で勝ち、どうやってトランプさんの力を抑え、影響力を抑えられるかを考えているのです。あまり民主党の方に擦り寄ったら、自分のリーダーシップが危なくなるし、かと言って、あまりトランプさんの方に擦り寄ったら大企業からお金が来なくなってしまう。大企業の献金をする人たちは、「トランプさんを支持する」などと言った人には絶対にお金を出さないと言っているので、マコーネルさんも焦っているらしいのです。
飯田)もう完全に板挟み状態なわけですね。
宮家)そうです。その意味では難しい判断です。もちろんバイデンさんもそうですが、マコーネルさんも、いまアメリカの国内政治で最も注目されている1人だと思います。
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