カーリングでの珍事で再確認した“スポーツと「フェアな精神」”

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、スポーツと「フェアな精神」にまつわる話題を取り上げる。

北海道銀行戦でショットを放つロコ・ソラーレの吉田知(中央)=2021年2月10日 稚内市みどりスポーツパーク((c)JCA IDE) 写真提供:共同通信社

来年(2022年)開催される北京冬季五輪の開幕まで残り1年を切るなか、2月14日に北海道・稚内市で、カーリングの全農日本選手権・最終日が行われました。日本選手権は、五輪代表選定に関わる重要な大会で、日本カーリング協会は「2020年・2021年の日本選手権を連覇したチームを、北京五輪代表とする」と定めました。優勝チームが異なった場合は、両チームの間で代表決定戦が行われます。

今年(2021年)の女子決勝は、2018年・平昌五輪で銅メダルに輝いたロコ・ソラーレと、北海道銀行の対決になりました。前回優勝のロコ・ソラーレは、勝って連覇を果たせば、規定により北京行きが決まります。一方の北海道銀行は何とか勝って代表決定戦に持ち込みたいところ。そんな重要な試合で、こんなハプニングが起こりました。

第4エンド、北海道銀行のスキップ・吉村紗也香の2投目。ハウスの中央を狙ったドローショットがみごとに決まり、ストーンが狙いどおりの位置に……と思いきや、スイープしていた近江谷杏菜のブラシが、ストーンに接触してしまったのです。

最高のショットだったが、近江谷が自らルールに抵触したとして石を無効とした。近江谷は「私のブラシです。ビデオ判定とかないので」と話した。痛恨のミスではあったが、近江谷は「ミスは戻せない。チームで『ここからもう1度やり直そう』と声をかけてくれた」。ミスをひきずらずに、優勝をたぐり寄せた。

~『日刊スポーツ』2021年2月14日配信記事 より

逆転勝ちで日本選手権制覇を果たし、北京行きに望みをつないだ北海道銀行。カーリングは、ルールに触れる問題が起こったら、選手同士が話し合って解決するのが原則のスポーツです。ブラシがストーンに当たったことを、対戦相手のロコ・ソラーレでなく、当てた北海道銀行側が自己申告したのは、いかにもカーリングらしい光景でした。フェアプレーの精神が徹底されている証しです。

このシーン、もし自分がそういうミスをしたら、同じことができるだろうか?……とつい考えてしまいました(この試合は全国中継されていましたが、それは抜きにして)。近江谷が自己申告したのは「これをスルーしては、スポーツではなくなる」と思ったからでしょう。「自分の利益を守るためなら、堂々と嘘をついてもいい」というおかしな論理がまかり通る昨今、非常にすがすがしいものを感じました。

自己申告のスポーツというと、真っ先に浮かぶのがゴルフです。よく「紳士のスポーツ」と言われますが、スコアはプロアマ問わず、自分で書いて提出するのが原則。もしスコアを過少申告したら、プロの場合、たとえウッカリでも即失格となります。

常にフェアプレーを問われる競技ですので、大きな大会でも「ルールに触れた」と競技委員に自己申告して、自らに罰打を課すプロは少なくありません。この件でよく引き合いに出されるのが、「球聖」と呼ばれる伝説のゴルファー、ボビー・ジョーンズがいまから100年近く前に残した逸話です。1925年、全米オープンでこんな“事件”が起こりました。あるホールでラフに打ち込んでしまったジョーンズは、ホールアウト後、驚くべき行動に出ます。

深いラフで誰もいないなかで「草か風か、動いたような気がした」と同伴競技者に申告。1打罰で首位に並ばれ、プレーオフで敗れた。当時の新聞・雑誌はこれを賞賛したが、ボビーは「スコアをごまかさなかったのをほめてくれるのは、銀行強盗をしなかったとほめてくれるようなものだ」と応じ、ゴルフが精神性の高いスポーツだと知らしめた。

~『週刊ゴルフダイジェスト』2016年5月20日配信記事 より

優勝を逃した後のこのコメントで、ますます株が上がったジョーンズ。どこかの政治家にも聞かせてあげたい言葉です。

また、つい先日、2月6日に行われたサッカーのイタリア1部リーグ・セリエAでもこんな出来事がありました。アタランタvsトリノ戦で、前半33分、トリノのFW、アンドレア・ベロッティ(イタリア代表)が、相手ゴールに向けて走っている途中で倒れると、審判は「倒された」とみてファウルを取り、トリノは好位置からのフリーキックを獲得。アタランタのクリスティアン・ロメロにはイエローカードが出されました。

ところが……映像をよく見ると、ベロッティは倒されたのではなく、自分で転んだのでした。審判の角度から見ると「相手が倒した」ように見えたわけです。トリノにとってはまさに儲けもの。ロメロにとっては“とんだ濡れ衣”でした。

懸命に抗議に出るロメロだったが、次のベロッティの行動がなんとも粋だった。審判に対して、ジェスチャーでロメロの警告を取り消すように申告したのだ。絶好の位置でフリーキックが与えられたが、これもゴールは狙わず相手GKにボールを返した。

~『THE ANSWER』2021年2月8日配信記事 より

ベロッティのこの行為に賞賛が集まったのは言うまでもありません。こういう話をすると「いや、そういうのは黙ってもらっておくのもプロでしょう」と言う人もいますが、果たしてそうでしょうか?

これは「スポーツをする意味」にも関わる問題です。自分の持てる能力を“フェアな環境で”最大限発揮し、勝敗を競うのがスポーツの根本で、フェアではない状況で勝ったとしても、それは真の勝利とは言えない……そう思うからこそ、ベロッティはボールを相手に返したのです。

また団体競技の場合、その行為が必ずしもチームにとってマイナスになるとは限りません。先述のカーリング・北海道銀行の場合は、近江谷の申告によってチームの結束が深まり、逆転優勝を飾りました。トリノも“誤審”があった時点で0-3とリードされていましたが、最終的に3-3と追い付き、ドローに持ち込んでいます。ベロッティの行為にチームメイトたちが何かを感じたからでしょう。

審判の判定の前に、自分のなかにもジャッジを置く……スポーツマンたるもの、そうあって欲しいと思います。ともすれば正義より不正が幅を利かす、こういう時代だからこそ。


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