中国の中間層は「民主化を望んでいない」という事実
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月3日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。香港で民主派47人が起訴された裁判をアメリカ国務省の報道官が非難したというニュースについて解説した。
香港国家安全維持法違反の罪で民主派47人を起訴~アメリカ国務省が非難
香港の国家安全維持法違反で起訴された議員ら47人の裁判が始まり、アメリカ国務省のプライス報道官は3月1日の会見のなかで、「香港国安法が反対意見を封殺するために使われていることを示す新たな例だ」と非難した。また、プライス報道官は起訴の取り下げと速やかな釈放も求めている。
飯田)香港の人権ということになります。
佐々木)中国政府は、なぜここまで強硬にやるのか、ということに対してよく言われているのは、「香港の民主主義が中国本土に波及するのを防ぐためだ」ということです。しかし、実はそうではないという話を知り合いの中国人何人かに聞きました。
飯田)そうですか。
大陸から見ると「香港の人は大陸の人たちを見下している」
佐々木)「大陸から見ると香港はどう見えているか」と聞くと、意外に多いのは、「印象的には偉そうな人たち」ということでした。要するに民主主義だからと言って、「大陸の人たちを下に見ている」と言います。もともと金融センターですごく大きい街だったから、貧しい中国に対して「我々は豊かである」という、上から目線を感じると言う人が何人かいました。確かに、そういう記事を探すと、そのように指摘する識者もかなりいました。
分断したアメリカのようになるのならば、中国共産党の独裁体制の方が安定していていい
佐々木)もともと香港は大陸より進んだ民主主義であり、資本主義経済も発達しているエリアでした。しかし、近年、大陸側の経済成長が著しいですよね。金融センターやITの中心地と言うと、香港に隣接する深圳の方が進んでいます。いまの大陸から見ると、香港は未だに経済規模は大きいかも知れませんが、もはや我々の方が大きいと。大陸では全部電子マネーになって、インターネットも普及して進化していますが、香港は未だに現金を使っていて、少し遅れている場所だと言います。また民主主義に対する見方に関しても、欧米のリベラリズムから見ると、「中国の国民は民主主義を待ち望んでいるに違いない」という幻想がありますが、そうではありません。「中国共産党の独裁体制の方が安定していていい」ということです。「分断してしまったアメリカのようになるのであれば、民主主義ではなく、いまの中国で十分だ」という考え方の人が中国には多いのです。
飯田)北京政府もそういう主張を続けていますよね。
国内の世論向けに、香港を生贄のように血祭りにしている習近平主席
佐々木)そういう視点から今回の強硬な措置を考えると、「大陸に及ぶのを恐れている」というよりは、習近平さんは海外のことは考えず、国内の統一を望んでいる人だから、国内の世論向けに、香港を生贄のように血祭りにしているのではないでしょうか。
飯田)それによって人民の溜飲を下げるということですか?
佐々木)そうです。みんなが「やはり香港はそうだよね」と。それによって中国大陸の人が団結する一助になるのではないかと。そういう狙いなのかなと考えられます。
飯田)そうすると戦い方として、逆に言うと、「人権だ」とかで「北京政府は許さない」ということがかえって……。
佐々木)「人権弾圧だ」と言っていると、大陸側からは「お前ら何を偉そうに言っているのだ」と聞こえてしまいます。
飯田)いちばんの犠牲は香港の民主派の人たちですよね。
佐々木)他に戦い方があるかと言われると答えがなく、何とも言えません。私は香港の民主派を応援していますが、大陸側がどう見ているかということを、もう少し冷静に分析した方がいいのではないかと思います。
中国からはリベラリズムがどう見られているのか、視点を入れ替える作業が重要
飯田)敵を知らないと戦い方も誤るということですか?
佐々木)常に欧米的なリベラリズムが最高の普遍的な価値であり、「それは揺るがない」という視点からものを語る人が多過ぎます。それはそれで正しいリベラリズムでいいのですが、一方でそうではない価値観の国が出て来ています。「そちらからはリベラリズムがどう見えているのか」という、視点を入れ替える作業が重要です。それをやらないと、いつまで経っても上から目線のままです。上から目線で言っているうちは理解が進みません。「なぜ中国があんなことをしているのかわからない」という話にしかなりません。
いまの中国の中間層は民主化を望んでいない
飯田)本当に深刻な問題であるのと、自由の価値は実際に享受しないとわからないということですよね。
佐々木)過去の中国での世論調査について、研究書からいくつか引用したことがあります。いまの中国の中間層は、民主化をまったく望んでいません。せっかくお金を得て豊かになって車も買えるようになり、マンションに住めるようになって、「文革のころから比べれば、こんなに幸せになったのに、いまさら混乱するのは耐えられない」と思っている人が圧倒的に多いという結果が出ています。その気持ちはよくわかります。いまの日本でもそうで、「自由と安逸さのどちらを望むか」と聞いたら、安逸さを望む人の方が多いのではないかと思います。
飯田)このコロナ禍において、自由に外で出歩くよりも、家にいる方が楽で安心だということですね。
佐々木)恋愛もそうです。結婚が親に決められた時代は、みんな自由恋愛をしたいと思っていました。しかし完全に自由恋愛になったらどうなったかと言うと、恋愛強者だけが残り、モテない人は永久に浮かばれない。そういう時代になると、「これだったら昔のお見合い結婚でよかったのではないか」となります。自由ではなかった時代に対して、価値を感じる人が増えて来るという自由のジレンマはあります。
飯田)そこも選択肢が多く持てる社会がいいのだろうとは思いますが。
佐々木)選択肢を多く持てる社会ということは、「選択できる人」と「できない人」に分断されるということです。
2030年には中国がアメリカを抜く~価値観の衝突は難しい
飯田)香港の話に戻ると、一国二制度を受け入れてしまった時点で、ゲームが終わっていたのではないかという話も出ています。
佐々木)どちらにしても、あと20年後ぐらいには一国二制度は終わるので、最終的なビジョンがないまま始まっているのではないかという考え方もできます。
飯田)その価値観のようなものが、中国のなかだけで収まっていればいいですが、どんどん外に出て来ています。我々はそちらに対応しなければいけませんよね。
佐々木)これは第二次世界大戦後、76年、世界をコントロールして来たリベラリズム的な国際秩序と、それに対して異を唱えている中国、ロシア。異を唱えているのは、単なるダメな価値観ではありません。かつてのソ連であれば、いずれ経済が行き詰って終わるということを、自信を持って言えましたが、いまの中国に対しては言えませんよね。2030年くらいまでには、アメリカを抜くことがわかっています。この先、価値観の衝突は難しい問題だと思います。
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