3.11を忘れない……いま、映画を通じて東日本大震災と向き合う

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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第980回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

2021年、東日本大震災から丸10年となりました。その間、日本では震災をテーマにした数々の映画が製作されています。

私は震災以前から仕事やプライベートでご縁をいただき、東北を訪れる機会が多くあります。そのたびに思うのは、復興が進むとともに、世間からは震災の話題が年々風化して行く傾向にあるということ。

そんな風潮に関係なく「伝え続ける」ことが、微力ながら自分の使命であることを自覚すると同時に、映画はその大きな役割を担っているエンターテインメントのひとつだと思っています。

そこで今回は、いまだからこそ向き合いたい。私、八雲ふみねにとって印象的な「東日本大震災を題材にした映画」を4作品ご紹介します。

『Fukushima 50』

画像を見る(全7枚) 『Fukushima 50』

『Fukushima 50』~あの未曾有の事故は、まだまだ終わっていない……

先ごろ発表された「第44回日本アカデミー賞」では、優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演男優賞、優秀助演男優賞、優秀助演女優賞などを含む最多12部門を受賞。

関係者90人以上への取材をもとに綴られた門田隆将のノンフィクション作品「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を原作に、東日本大震災時の福島第一原発事故を描いた映画『Fukushima 50』。

世界中のメディアから“Fukushima 50”(フクシマフィフティ)と呼ばれた、福島第一原子力発電所(通称イチエフ)に残った地元・福島出身の作業員たち。

現場では、本当は何が起こっていたのか。一体、何が真実なのか……。本作は、東日本壊滅の危機が迫るなか、死を覚悟して発電所内に残った人々の知られざる“真実”を克明に描き出した人間ドラマ。【東日本大震災から10年『Fukushima 50』“3.11を忘れない”特別上映】と銘打ち、全国の映画館で再上映されています。

原発内で戦い続けた作業員たちの姿は、まさに“名もなき戦士”。彼らがあのとき、諦めずに事故と向き合ったからこそいまがある。東日本大震災から丸10年を迎えたいまもなお、帰宅困難区域となっている地域もあり、避難を余儀なくされている方も多くいらっしゃいます。

イチエフの廃炉の目処は立たず、10年経っても大きな余震が続いているのが現状です。まだまだ終わっていないこの事故を、決して風化させてはならない。公開時にご覧になった人も未見の人も、この機会に是非、スクリーンで。

『凪待ち』

『凪待ち』

『凪待ち』~宮城県石巻市を舞台に描く、喪失と再生の物語

国民的人気タレント香取慎吾と『孤狼の血』の白石和彌監督がタッグを組んだことでも話題となった『凪待ち』。ギャンブル中毒の主人公が運命に翻弄されながら織りなす、愛と暴力の人間模様を鮮烈に描いたオリジナルストーリーです。

『凪待ち』というタイトルには、「いつか穏やかな日が来れば……」という白石和彌監督の願いが込められているとのこと。そこには主人公の平穏だけでなく、石巻の東日本大震災からの復興を想起させるものがあります。

震災直後に石巻を訪れたとき、地元の漁師さんから、こんな話を聞いたことがあります。「石巻の海は、かつては漁や養殖の繰り返しでやせ細っていた。だけど津波で一度リセットされたことで、再び豊穣な海が戻って来ている」と。

その言葉に呼応するかのように、本作からは「3.11」を悲劇と捉えるだけではなく、「震災後」に生きる人々の慎ましくも愚直なエネルギーを感じずにはいられません。

震災の痛みを忘れない。そしてそれと同時に、街も人も生まれ変わっているのです。

『国民の選択』

『国民の選択』

『国民の選択』~原子力発電存続に賛成? 反対?

舞台は、未来の架空の日本。原子力発電存続を問う国民投票を前に、賛否の間で揺れ動く家族の様子を描いた『国民の選択』。

福島第一原発事故から10年。あの悲劇が繰り返されないために、いま私たちが考えるべきこととは……。いまだからこそ観たい社会派ドラマです。

『漂流ポスト』

『漂流ポスト』

『漂流ポスト』~3.11の想いを手紙がつなぐ

被災地である岩手県陸前高田市の山奥に実在する郵便ポストをモデルにした映画『漂流ポスト』。

東日本大震災で親友を亡くした主人公が、“漂流ポスト”の存在を通して辛い現実を受け止めつつ、新たな一歩を踏み出して行くまでの心の軌跡を丹念に描いています。

命の尊さ、そして人と人との絆の大切さに改めて気づかされる感動作です。

ニッポン放送「Tokyo cinema cloud X」

ニッポン放送「Tokyo cinema cloud X」

写真は、JR女川駅前に飾られた鯉のぼり。私にとっては“復興の象徴”とも呼べる1枚です。

毎年4月後半から5月前半まで観光客を楽しませてくれる風景なのですが、2020年は残念ながら、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまいました。しかし今年、2021年のゴールデンウィークは開催予定とのこと(ただしコロナ禍の情勢によっては中止の可能性もあり)。

すべての人が1日も早く、平穏な日常を取り戻せることを心から祈念いたします。

『Fukushima 50』

画像を見る(全7枚) 『Fukushima 50』

『Fukushima 50』(2020年公開)

2021年3月5日から全国順次特別上映
Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、堀部圭亮、小倉久寛、和田正人、石井正則、三浦誠己、堀井新太、金井勇太、増田修一朗、須田邦裕、皆川猿時、前川泰之、Daniel Kahl、小野了、金山一彦、天野義久、金田明夫、小市慢太郎、伊藤正之、阿南健治、中村ゆり、田口トモロヲ、篠井英介、ダンカン、泉谷しげる、津嘉山正種、段田安則、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美
監督:若松節朗
原作:「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」門田隆将(角川文庫刊)
脚本:前川洋一
音楽:岩代太郎
演奏:五嶋龍、長谷川陽子、東京フィルハーモニー交響楽団
撮影:江原祥二
照明:杉本崇
サウンド・デザイン:柴崎憲治
美術:瀬下幸治
特撮・VFX監督:三池敏夫
配給:松竹、KADOKAWA
(C)2020『Fukushima 50』製作委員会
公式サイト https://www.fukushima50.jp/

『凪待ち』

『凪待ち』

『凪待ち』(2019年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
2019年6月28日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
配給:キノフィルムズ
(C)2018「凪待ち」FILM PARTNERS

『国民の選択』

『国民の選択』

『国民の選択』

2021年3月5日(金)からアップリンク渋谷ほかにて公開
出演:水石亜飛夢、妹尾青洸、松永有紗、みょんふぁ、藤原啓児、泉はる、白石康介、犬飼直紀、南圭介、堀丞、石田直也、山崎将史、石本政晶、安住啓太郎、保里ゴメス、石井紀行、齋藤はるか、坂神志織、夏美沙和、白井絵莉、沓名環希、小山めぐみ、古谷久美子、本田結愛
監督・脚本:宮本正樹
プロデューサー:佐伯寛之
撮影:千葉史朗、田淵和春
照明:加藤祐一
録音:木原広滋
企画・製作・配給:ディレクタースカンパニー
制作協力:トキメディアワークス
配給協力:ユナイテッドエンタテインメント
公式サイト https://www.kokumin-movie.com/

『漂流ポスト』

『漂流ポスト』

『漂流ポスト』

2021年3月5日(金)からアップリンク渋谷にて 他全国順次公開
出演:雪中梨世、神岡実希、中尾百合音、藤公太、小田弘二、植村恵、永倉大輔
監督・脚本・編集・プロデュース:清水健斗
撮影監督:辻健司
録音:田原勲
ヘアメイク:大上あづさ
ロケ車:福田和正
整音・効果:桑原秀綱、村田桃子
音楽:伊藤明日香
キャスト協力:林まゆみ
字幕制作:仙野陽子、蔭山歩美
特別協力:赤川勇治、シネマプランナーズ
配給:アルミード
(c) Kento Shimizu
公式サイト https://www.hyouryupost-driftingpost.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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